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CSOネットワークのブログ

一般財団法人CSOネットワークのブログです。
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評価事業、SDGs関連事業などについての記事を書いていきます。


DE(発展的評価)登山 [2018年04月13日(Fri)]

こんにちは。
評価士の三浦宏樹です。

発展的評価の提唱者であるマイケル・クイン・パットンは、ブランディン財団と共同で「アカウンタビリティ・マウンテン(Mountain of Accountability)」https://blandinfoundation.org/content/uploads/vy/Final_Mountain_6-5.pdfというレポートを発表しています。

この中でパットンは、アカウンタビリティ(説明責任)には3つの階層があると論じています。「経営プロセスの基本的アカウンタビリティ」「インパクトのアカウンタビリティ」「学習・発展・適応のアカウンタビリティ」の3層です。

1階層「経営プロセスの基本的アカウンタビリティ」で主に問われるのは、事業(プログラム)を計画・認可されたとおりに実施したかどうかという点です。ロジックモデルの言葉を用いれば、第1階層はインプット(投入)、アクティビティ(活動)、アウトプット(結果)に関わるアカウンタビリティといえます。コンプライアンス(法令遵守)の視点も、この階層に含まれます。第2階層「インパクトのアカウンタビリティ」では、プログラムのアウトカム(成果)やインパクト(効果)が満足すべき水準かどうかが主に問われます。世間でいう「アカウンタビリティ」は、この2つの階層で十分にカバーされるように感じます。

一方、パットンが提示する第3階層は「学習・発展・適応のアカウンタビリティ」と名づけられています。ここで彼は、伝統的な評価(第2階層に対応)がプログラムの漸進的改善や意思決定に重きを置くのに対して、発展的評価(第3階層に対応)は、組織全体のミッションを達成するための戦略の実施や改革を支援するとしています。第2階層までのアカウンタビリティが、組織が手がけるプログラムが現時点で成果を挙げているか否かを評価するのに対し、それだけでは、組織が中長期にわたり存続・発展し、自らのミッションを達成するのは覚束ないという認識が、おそらくそこにあるのだと思います。自らを取り巻く環境の絶え間ない変化に適応し、現場で得た経験を新たな戦略へと練り上げていくイノベーションのプロセスが求められるのでしょう。

でもこれってアカウンタビリティの一種なのでしょうか? 評価の目的としてよく挙げられる「アカウンタビリティ確保」と「学び・改善」でいえば、後者の方に含まれるのでは?

そうした点について自分なりに考察を深めるうえで、営利企業におけるアカウンタビリティを取りあげてみたいと思います。というのも、今日アカウンタビリティというと行政機関やNPOのそれを連想しがちですが、この言葉はもともとAccounting(会計)+Responsibility(責任)に由来し、会社が株主に対して経営状況を説明する義務を意味したからです。

会社が株主を満足させるうえで最重視されるのは、まず間違いなく「利益」でしょう。その利益を計算するために作成・公表されるのが損益計算書(Profit and LossP/L)です。ざっくりいえば、収入から費用を差っ引いて利益(または損失)を計算した書類です。NPOでもP/Lを作成しますが、会社と違ってNPOの場合は、利益を増やすことが目的ではありません。利益に代わって目的となるのが、アウトカムやインパクトです。その意味で、アカウンタビリティの第12階層は、営利企業でいえばP/Lに対応するといえるかもしれません。この部分の測定を特に重視したのが、社会的インパクト評価です。


しかし会社も、何もない真空から利益を稼ぎ出しているわけではありません。会社は、価値を生み出す源泉として工場・店舗・事務所などの資産を所有し、それらに要する資金を借入や株式、内部留保で調達しています。そうした資産と負債・資本の状況を示すのが、貸借対照表(Balance SheetB/S)です。会社の経営状況を説明するうえで、P/Lと並んで基本になる書類です(他にキャッシュフロー計算書がありますが、ここでは説明省略)。


とはいえ、企業による価値創出の源泉は、こうした有形の資産だけではありません。会社で働く社員の皆さんの力や、経営者の指導のもとで発揮される組織の総合力、研究開発などを通じて獲得した特許などの知的財産といった無形資産(インタンジブルズ)があってこそ、企業は利益を生み出すことができるのです。こうした無形資産はB/Sには載っていません。しかし、企業価値を正しく評価するうえでその重要性は増しており、企業会計の世界でもそれらを「見える化」しようという動きが進んでいるようです。有形・無形資産は、その会社が将来に創出する価値(利益)の源といえます。


ひるがえってNPOのことを考えてみましょう。NPOの中には事業用の施設や設備を抱えるところもあるでしょうが、多くのNPOでは、そこで働くスタッフと、経営者のマネジメントが財産のほぼ全てではないでしょうか。要するに、NPOがいかにして社会的価値を創出するかを理解するには、B/Sだけ見ていても無意味。NPOが将来、自らのミッションを達成できるかどうかを判断するには、NPOの経営者や職員の能力構築(キャパシティビルディング)や、受益者や協力者などの多様な利害関係者(ステークホルダー)間の関係構築、それらを総合した組織としての経営力を見ることが大切です。すなわち、第3階層のアカウンタビリティは、営利企業になぞらえればB/S(&無形資産)に対応するといえそうです。学習・発展・適応を通じてイノベーションを生むNPOの能力は、B/Sに計上できる有形資産と違ってお金に換算することは困難です。しかし、複雑で不安定な現代社会の中で、自らが掲げたビジョンを中長期的に実現していくうえでは欠かすことができません。こうした意味で、パットンのいう第3階層――「学習・発展・適応のアカウンタビリティ」は、すぐれて未来志向のアカウンタビリティと呼べるのではないでしょうか。


Mountain of Accountability.png


▲Mountain of Accountability レポート(Blandin Foundation)より
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