静岡県下田市では、ここ数年、政策形成力を磨くために、係長以前の職員が、担当を超えてグループワークを行い、政策課題に取り組む研修を行っています。
伊豆半島の先端に位置する下田市は、温泉や海産物、海でのレジャーや開国の歴史などに恵まれた観光地ですが、観光交流客数は、1987(昭和62)年の620万人をピークに、昨年には340万人とほぼ半減しています。
当然、市の財政も厳しいものであり、新規採用の抑制と臨時職員の幅広い活用などで、対処しています。
そんな難局に、職員の政策形成力を高めることで立ち向かっていこうと行われているのが、このグループワーク研修です。
私は、過去にも、単発でグループワークの進め方を講義させてもらっていましたが、今年は、6月から10月までの5ヶ月間、毎月1回の全体研修(ゼミ)を行うスタイルで、関わりました。
各8名の3グループが、各グループで設定した日に活動するとともに、月に1回全体で集まり、進捗状況を確認することで、より内容の濃い研修になったわけです。
5ヶ月間のプログラムは、次のようなものでした。
第1回ゼミ(6月5日)
○講義 自治体職員と地域づくり、グループ研究の進め方
○演習&実習 グループ研究の進め方の基本形、アドバイス
第2回ゼミ(7月6日)
○講義 住民参加・協働の考え方と事例
○進捗報告と質疑応答
○実習 グループ研究とアドバイス
第3回ゼミ(8月7日)
○講義 ファシリテーションの技術
○演習 スキットで学ぶファシリテーションのポイント
○進捗報告と質疑応答
○実習 グループ研究とアドバイス
第4回ゼミ(9月11日)
○進捗報告と質疑応答
○中間まとめ報告とアドバイス
○実習 グループ研究とアドバイス
グループ研究活動成果発表会(10月24日)
また、3つのグループに与えられた政策課題は、次のようなものです。
グループ名 ランドスケープ
下田市を代表する景観スポットを考えてみましょう。
グループ名 Team Magic
下田市の観光イベントでもある「黒船祭」を更に魅力あるものにできないか考えてみましょう。
グループ名 Shake Hands
行政と民間の役割について見直し、真にあるべき行政の姿について考えてみましょう。
グループ研究の進め方として指導した主な点は、政策課題について、「現状と問題点」「めざす姿」「具体的方策」の3段階に分け、かつ、相互のつながりを意識しながら取り組むというものでした。
また、それぞれの段階は、単なる好みや印象だけでなく、裏づけとなるデータを集めるようにとも指導しました。
これを、第1回ゼミで理解してもらい、スケジュール感を持ってもらったうえで、第2回ゼミ以降は、進捗状況を確認しながら、着実に進めていくという方法をとりました。
成果発表会で講評しましたが、各グループとも、大変よい研究ができたと考えています。
「ランドスケープ」は、過去の観光アンケート調査や観光パンフレットなどの分析から、海水浴客の多い夏に加えて、もう1回訪れてもらえるための景観を考え、各月に咲く花を取り合わせた景観を、「下田バカンスカレンダー」という形にまとめました。
確かに下田には、四季折々に咲く花があり、私も、7月に訪れたときには、了仙寺のアメリカジャスミン(ニオイバンマツリ)、10月に訪れたときには、これから見頃を迎える、寝姿山のリトルエンジェル(ノボタン)などを買い求め、家で育てるのを楽しんでいます。
何月に訪れても楽しみがあることを演出するのは、よいアイデアだと思いました。
「Team Magic」は、1934(昭和9)年からの伝統を誇る、日米交流を目玉とする「黒船祭」について、五感のうち、舌と鼻を刺激するイベントが少ないことに着目。幕末に来航したプチャーチンにちなんだ、ロシアの伝統料理ピロシキの生地で、文明開化の頃、欧米人に振る舞ったというすき焼きを包んで、その名も「ピロスキ」という新メニューを考案。旅館や居酒屋で味わう本格的な料理とは異なる、お手軽なファストフードとして、製造販売するというアイデアでした。
また、「Shake Hands」は、行政と民間の役割分担という、非常に生真面目なテーマに取り組みましたが、現在、下田で力を入れている、海洋環境を活かした健康づくりや体験プログラムを楽しむ「海洋浴」、また、熊本県人吉市で温泉旅館を活用したデイサービスを行っているという「温泉デイ」など、地域を挙げて官民協力で取り組んでいる事例を研究し、民間の力を積極的に引き出していく行政の姿を提示していました。
会場には、市長、教育長をはじめ、部長、課長、係長が発表を見に訪れていましたが、例えば、観光の担当課で考えれば、きっとハナから「できない理由」を考えてしまうところを、自由な発想で考えることができている、といった評価を聞くことができました。
実際、私も、千葉県四街道市で任期付職員をやっていて感じるのですが、上司の部長や課長の考えがわかってくると、部下は物事を抑制的に考えるようになってしまいます。上司になるほど、組織上の責任が重くなるので致し方ない面もありますが、冒険的なアイデアは生まれにくくなります。
組織のタテ割りをくずしてグループワークをすることで、組織の弊害や閉塞感を打破する効果は見込めると思いました。
ただ、今回の研修で惜しむらくは、あくまで「研修」であること。研修で生まれたアイデアを、各担当で活かしてもらうという回路があるとよいのですが、本物のプロジェクトチームではないため、あくまで「研修は研修」ということで終わりそうなのが残念なところです。
今回の研修の成果を、実現につなげる部分について、研修のさらなる改良が必要だと考えます。そもそも、いずれの課題も、行政だけで取り組んで実現できるものではありませんので、市民や事業者と協働したり、アイデアを投げて事業化を後押ししたり、といったことをやればよいのだと思います。
「政策形成力」とともに、民間との協力関係を築く「コーディネート力」。今後は、この両方を磨いていく必要があると考えます。
※写真に、あまり脈絡がなく、すみません。下田のいろいろな良さを伝えたかったもので・・・