解説・「調達」で注目される中小企業のCSR[2007年06月06日(水)]
執筆者:CANPAN CSRプラス運営事務局
CSRは中小企業にとって重荷?
CANPAN「CSRプラス」運営事務局では、全国各地でCSRをテーマとしたセミナーのお手伝いをしています。その中で、CSRを「やならければならない面倒なこと」と受け止めておられる中小企業の社長さんとたくさんお会いしてきました。とくにISOに話題が及ぶと、9001(品質)や14001(環境)についての批判や、そうしたマネジメントシステムの導入を取り引きに求める大手企業への不満を述べられる方も少なくありません。大手企業が社員のワークライフバランスに配慮して残業を減らしてもそのまま中小にしわ寄せが来るだけだ、という批判さえ耳にします。
実際にさまざまなCSRのランキングで上位にランクされている大手の企業の下請け現場などを見てみますと、確かにその通りかも、と思える光景が広がっています。いわゆる「CSRの推進」は、本当に「社会的な責任の推進」になっているのか、疑問に思うこともあります。また、原料の購入や加工工程、運送など、いわゆる「調達」におけるCSR、つまり「CSR調達」についてガイドラインを設ける企業や、業界単位でのガイドライン作りに乗り出す動きもあります。サプライチェーンにも責任の範囲が広がっている中、大企業では取引先における「環境」や「品質」のマネジメントはもちろん、「人権」についても留意する必要が出てきました。環境面での調達ガイドラインが、中小での環境マネジメントの推進に果たした役割と同じことが、今後は環境以外のCSR分野でも同様に求められてくるようになることは、すでにCSRプラスの他の記事などを通じて紹介されている通りです。しかし、中小企業が1社のみで、障がい者をたくさん採用したり、自社の調達先についての人権状況を確認するためのマネジメントシステムやマニュアルを開発することは難しいのが実情です。
このままCSR調達への関心が高まれば、規模が小さい事業者はビジネスへの参加そのものが難しくなるかもしれません。例えばあなたがあるメーカーの調達担当者だったとして、同じ品質の部品を同じコストで供給できる取引先が2社あって、一方が「我が社は原材料のすべてをトレースし、環境、品質、人権のすべての面で問題ないことをこのように確認しています」と言い、もう1社は「確認すべきだとはわかっていますが、人手が回りません」と言っている場合、どちらと取り引きしたいと思うでしょうか。一般消費者もまた、環境にも品質にも厳しく、加工工程における人権状況にも関心を高めていますから、同じ状況がBtoC企業でも起きてきます。こうした状況を考えますと、CSRが注目されればされるほど、中小企業にとっては重荷になるとの指摘も頷けるような気がします。
素晴らしい取り組みを可視化する
一方で、生産者や自治体、NPOなどとともに、中小ならではの地域密着の取り組みを展開している企業も少なからずあります。地元のお客さんに支えられているBtoC企業のみならず、社員の社会参加を奨励したり、障がい者などの雇用に積極的に取り組むBtoB企業もみられます。
現在見られる中小企業のCSRの好事例は、社会状況を踏まえてというものより、自社の使命と一致するのでやっているというものが多いように思います。東証一部上場企業とちがい、中小企業では投資家を意識してCSRを推進するという必要はあまりありませんので、これまではCSR報告書を作成して自社の取り組みをアピールする必要もありませんでした。ただ単に、自社だけでなく、地域や地球の未来を考えて「本業をまともにやる」ことが、たまたま外から見ればCSRと呼ばれるものだった、というのが中小企業のCSR事例の特徴といえるかもしれません。
ところが、こうした「隠れた素晴らしい取り組み」は外からは評価しにくいものです。欧米のファンドが株式投資を通じて日本のグローバル企業にCSR推進を促したのと同じ役割を、CSR調達への関心の高まりが中小企業のCSR推進を促していく可能性があります。CSR調達では、BtoB企業は取引先に、BtoC企業は消費者に、自社のCSRに関する情報を開示する責任が生じてきます。「うちはみんなで頑張ってちゃんとやってます」といわれても、「どのようにちゃんとやっているのか」がわからなければ、安心して発注したり購入したりできません。実際、多くの中小企業のみなさんは、きちんと、正しく商売をされていると思います。しかしこれからは、これらを可視化していくことが求められています。
業界ぐるみ、地域ぐるみでの取り組みに注目
BtoB企業においてCSRを可視化していくルールのひとつが「調達ガイドライン」です。「調達ガイドライン」といわれると、発注元からある日突然「調達ガイドライン」を提示されて、指示を受けて取り組むいわば「トップダウン」あるいは「指示・要請型」のものを想像される方も多いと思います。本来は、中小企業が自ら基準を設けたり、発注元とコミュニケーションを取りながら取り組みを進めていく「ボトムアップ型」あるいは「相互支援型」のCSRこそが、本来あるべき社会的責任を共有する姿でしょう。
しかし社会的責任を可視化するには、先述の通りコストがかかります。規模にもよりますが、ほとんどの中小企業では、CSR担当者を置いて対応するというようなことはほとんど不可能でしょう。取り組みを進めたいが、大企業の事例は中小企業にはまったく役に立たない、という声もよく耳にします。取引先から指示されてやるのではない中小企業でのCSRとは、どのように進めていけばよいのでしょうか。
中小企業がCSRにコストをかけられない理由に、コスト面での他社と競争を指摘する声があります。1社だけでCSRを推進してコストが上がれば、他社に取り引きを奪われてしまうのではないかという不安です。実は発注元も同様に、業界の中で自社だけがコストを上げてマーケットで生きていけるのか、不安を感じています。業界単位でのガイドラインづくりには、こうした業界内でのコスト面での不安を払拭し、業界全体として社会的責任を果たしていこうという背景があります。業界ぐるみでのCSR推進の動きを研究したり、地元の業界団体などで共同で取り組みを進めていくことも、中小企業のCSR推進では重要となっていくものと思われます。
また地域の複数の企業が協働でリサイクルやリユースのしくみを作ったり、中小企業でも簡単に導入できるマネジメントシステムを共同開発したりすることで、業界を越えて地域ぐるみでCSRを進めていこうとする動きも見られます。地域ぐるみでCSRを進めていくことで地域全体の信頼性を高め、外部から安心して取り引きできる環境を整えていくことも、CSR調達時代に中小企業が進めるCSRの選択肢として有効な方法だと思われます。
そこでこの連載では、「CSR調達」に焦点を絞って事例を紹介し、中小企業の視点からCSR推進のヒントを探ります。具体的には「業界での取り組み」と「地域での取り組み」に焦点をあて、業界ぐるみでの調達ガイドライン導入の事例や、自治体による総合入札制度、商工会などによる地域ぐるみの取り組みなどを紹介します。CSRが中小企業にとって重荷になるのではなく、次のステージに進む推進力となるような情報発信を本欄では続けていきたいと考えています。ご期待下さい。
CSRは中小企業にとって重荷?
CANPAN「CSRプラス」運営事務局では、全国各地でCSRをテーマとしたセミナーのお手伝いをしています。その中で、CSRを「やならければならない面倒なこと」と受け止めておられる中小企業の社長さんとたくさんお会いしてきました。とくにISOに話題が及ぶと、9001(品質)や14001(環境)についての批判や、そうしたマネジメントシステムの導入を取り引きに求める大手企業への不満を述べられる方も少なくありません。大手企業が社員のワークライフバランスに配慮して残業を減らしてもそのまま中小にしわ寄せが来るだけだ、という批判さえ耳にします。
実際にさまざまなCSRのランキングで上位にランクされている大手の企業の下請け現場などを見てみますと、確かにその通りかも、と思える光景が広がっています。いわゆる「CSRの推進」は、本当に「社会的な責任の推進」になっているのか、疑問に思うこともあります。また、原料の購入や加工工程、運送など、いわゆる「調達」におけるCSR、つまり「CSR調達」についてガイドラインを設ける企業や、業界単位でのガイドライン作りに乗り出す動きもあります。サプライチェーンにも責任の範囲が広がっている中、大企業では取引先における「環境」や「品質」のマネジメントはもちろん、「人権」についても留意する必要が出てきました。環境面での調達ガイドラインが、中小での環境マネジメントの推進に果たした役割と同じことが、今後は環境以外のCSR分野でも同様に求められてくるようになることは、すでにCSRプラスの他の記事などを通じて紹介されている通りです。しかし、中小企業が1社のみで、障がい者をたくさん採用したり、自社の調達先についての人権状況を確認するためのマネジメントシステムやマニュアルを開発することは難しいのが実情です。
このままCSR調達への関心が高まれば、規模が小さい事業者はビジネスへの参加そのものが難しくなるかもしれません。例えばあなたがあるメーカーの調達担当者だったとして、同じ品質の部品を同じコストで供給できる取引先が2社あって、一方が「我が社は原材料のすべてをトレースし、環境、品質、人権のすべての面で問題ないことをこのように確認しています」と言い、もう1社は「確認すべきだとはわかっていますが、人手が回りません」と言っている場合、どちらと取り引きしたいと思うでしょうか。一般消費者もまた、環境にも品質にも厳しく、加工工程における人権状況にも関心を高めていますから、同じ状況がBtoC企業でも起きてきます。こうした状況を考えますと、CSRが注目されればされるほど、中小企業にとっては重荷になるとの指摘も頷けるような気がします。
素晴らしい取り組みを可視化する
一方で、生産者や自治体、NPOなどとともに、中小ならではの地域密着の取り組みを展開している企業も少なからずあります。地元のお客さんに支えられているBtoC企業のみならず、社員の社会参加を奨励したり、障がい者などの雇用に積極的に取り組むBtoB企業もみられます。
現在見られる中小企業のCSRの好事例は、社会状況を踏まえてというものより、自社の使命と一致するのでやっているというものが多いように思います。東証一部上場企業とちがい、中小企業では投資家を意識してCSRを推進するという必要はあまりありませんので、これまではCSR報告書を作成して自社の取り組みをアピールする必要もありませんでした。ただ単に、自社だけでなく、地域や地球の未来を考えて「本業をまともにやる」ことが、たまたま外から見ればCSRと呼ばれるものだった、というのが中小企業のCSR事例の特徴といえるかもしれません。
ところが、こうした「隠れた素晴らしい取り組み」は外からは評価しにくいものです。欧米のファンドが株式投資を通じて日本のグローバル企業にCSR推進を促したのと同じ役割を、CSR調達への関心の高まりが中小企業のCSR推進を促していく可能性があります。CSR調達では、BtoB企業は取引先に、BtoC企業は消費者に、自社のCSRに関する情報を開示する責任が生じてきます。「うちはみんなで頑張ってちゃんとやってます」といわれても、「どのようにちゃんとやっているのか」がわからなければ、安心して発注したり購入したりできません。実際、多くの中小企業のみなさんは、きちんと、正しく商売をされていると思います。しかしこれからは、これらを可視化していくことが求められています。
業界ぐるみ、地域ぐるみでの取り組みに注目
BtoB企業においてCSRを可視化していくルールのひとつが「調達ガイドライン」です。「調達ガイドライン」といわれると、発注元からある日突然「調達ガイドライン」を提示されて、指示を受けて取り組むいわば「トップダウン」あるいは「指示・要請型」のものを想像される方も多いと思います。本来は、中小企業が自ら基準を設けたり、発注元とコミュニケーションを取りながら取り組みを進めていく「ボトムアップ型」あるいは「相互支援型」のCSRこそが、本来あるべき社会的責任を共有する姿でしょう。
しかし社会的責任を可視化するには、先述の通りコストがかかります。規模にもよりますが、ほとんどの中小企業では、CSR担当者を置いて対応するというようなことはほとんど不可能でしょう。取り組みを進めたいが、大企業の事例は中小企業にはまったく役に立たない、という声もよく耳にします。取引先から指示されてやるのではない中小企業でのCSRとは、どのように進めていけばよいのでしょうか。
中小企業がCSRにコストをかけられない理由に、コスト面での他社と競争を指摘する声があります。1社だけでCSRを推進してコストが上がれば、他社に取り引きを奪われてしまうのではないかという不安です。実は発注元も同様に、業界の中で自社だけがコストを上げてマーケットで生きていけるのか、不安を感じています。業界単位でのガイドラインづくりには、こうした業界内でのコスト面での不安を払拭し、業界全体として社会的責任を果たしていこうという背景があります。業界ぐるみでのCSR推進の動きを研究したり、地元の業界団体などで共同で取り組みを進めていくことも、中小企業のCSR推進では重要となっていくものと思われます。
また地域の複数の企業が協働でリサイクルやリユースのしくみを作ったり、中小企業でも簡単に導入できるマネジメントシステムを共同開発したりすることで、業界を越えて地域ぐるみでCSRを進めていこうとする動きも見られます。地域ぐるみでCSRを進めていくことで地域全体の信頼性を高め、外部から安心して取り引きできる環境を整えていくことも、CSR調達時代に中小企業が進めるCSRの選択肢として有効な方法だと思われます。
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そこでこの連載では、「CSR調達」に焦点を絞って事例を紹介し、中小企業の視点からCSR推進のヒントを探ります。具体的には「業界での取り組み」と「地域での取り組み」に焦点をあて、業界ぐるみでの調達ガイドライン導入の事例や、自治体による総合入札制度、商工会などによる地域ぐるみの取り組みなどを紹介します。CSRが中小企業にとって重荷になるのではなく、次のステージに進む推進力となるような情報発信を本欄では続けていきたいと考えています。ご期待下さい。



