CSRについての基本的な知識と、企業やNPO、自治体による取り組みの最新情報を知るためのコラムを掲載します。

 CSRプラスのデータ分析や、市民へのアンケート調査を掲載する「傾向と対策」をはじめ、 CSRの取り組みに熱心な企業にヒントを学ぶ「ケーススタディ」、社会的課題に直面するNPOのマネジャーが取り組みのポイントを提案する「ホットイシュー」、CSRに関心を持つ大学生によるレポート「CSR探検隊」。シリーズでお届けします。

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なぜ「地域でSR」なのか?〜外国人の児童労働から考える〜[2008年05月01日(木)]
CSR(企業の社会的責任)からSR(社会責任)の流れの中で、企業だけではなく、複数のステークホルダーで課題の解決をめざす取り組みが各地で始まっています。この新シリーズでは、そうした地域の取り組み事例をお伝えします。

ホットイシュー:地域ぐるみで進めるSR


執筆者:田村 太郎 
   (ダイバーシティ研究所代表 ・特定非営利活動法人多文化共生センター大阪代表理事)


日本で増える「児童労働」

 昨年10月、静岡家庭裁判所浜松支部は、労働基準法違反の罪で元人材派遣会社社長に懲役4月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。この人材派遣会社は、浜松市内の食品製造会社に、当時14歳だったブラジル人の少年2人を派遣していたとして摘発されていました。過去にも少なからぬ数の少年を雇い入れていたことがわかっています。就学年齢にありながら工場などで働く外国人の子どもたちは、他にも各地で散見されますが、とりわけ日系ブラジル人の子どもたちを初めとする外国人児童生徒の「不就学」が、働く子どもたちを生み出す大きな要因となっています。

 文部科学省は全国12の自治体に委嘱して、外国人児童生徒の就学実態調査を実施しました。就学していないことが明らかになったのは1.1%で、就学していない外国人児童生徒数の合計は12の自治体だけで112人いることがわかりました。外国籍の子どもには就学義務がないとされており、いわゆる「不登校」ではなく、どこの学校にも学籍がない「不就学」となっています。また、就学状況が確認できたのは全体の81.4%で、転居などで居所がつかめなかった子どもたちが17.5%、1,732人にのぼります。

 同じ調査で不就学の子どもたちに学校に行かずに日中何をしているのかを尋ねていますが、20.2%が「仕事・アルバイトをしている」と回答しています。就学年齢にある子どもはブラジル人だけでも全国で約3万人ですから、不就学率を1.1%、そのうち20.2%が働いているとして、全国で働いている可能性があるのは60人、という計算になります。しかし所在不明の子どもたちも相当数が学校に行っていない可能性があります。もしそのうちの20%が働いているとすれば、ブラジル人だけで1,000人を超える子どもが日本で働いていることになります。

企業だけでは責任を負えない

 子どもたちが働く理由は何でしょうか。

 一年ほど前に、浜松とはちがう別のある地域で、10名を越える子どもが工場で働いていたことが判明しました。労働基準監督署の方が一部の子どもから就労の事情について確認したところ、経済的な理由よりも、日本語が話せずに学校になじめないことや、ブラジルの学校を修了した(ブラジルでは初等教育が8年)ので働かせて欲しいと両親が就労を頼んだ、といった答えが多かったそうです。「学校に行かない」→「居場所がない」→「働く」という流れが見えてきます。

 先述の就学調査では、学校に行かない理由についても回答を得ています(図1)。最も多い回答は「学校に行くお金がない」というものですが、これは他の理由で日本の学校に行かないために、人材派遣会社等が経営するブラジル人学校に通うための学費(1人1ヶ月3〜4万円)が払えない、というものです。2位の「日本語がわからない」は、90年に入国管理法が改正され、日系ブラジル人がたくさん来日してからすでに長い年月が過ぎているにもかかわらず、子どもたちの日本語教育がまだ充分でないことを示しています。

【図1】


 「すぐに帰国するから」という理由からは、いわゆる「デカセギ」のままの就労が子どもの将来を描きにくくさせている様子が透けて見えますし、「母国の学校と生活や習慣が違うから」「勉強がわからないから」という理由も、外国人を必要としながら地域として準備が整っていないことも背景にあるでしょう。もちろん、日本語習得の支援や適切なオリエンテーションを行って、丁寧に就学をサポートしている地域も少なくありません。しかし ながらこのような取り組みはまだ少数で、現実的には、さまざまな理由から不就学になった子どもたちが、日本での「児童労働」につながっていきます。

 就学年齢にある子どもが働くことは確かに問題がありますが、働いていた工場や派遣した会社だけに責任を求めても、本質的な問題の解決にはならないのではないでしょうか。ある人材派遣会社の社長さんによると、「子どもが学校に行ってなくて家でゴロゴロしているが、そろそろ体も大きくなってきたので働かせて欲しい」といって子どもを連れてくる親もいるそうです。学校に行かない子どもが家にじっとしているはずもなく、非行に走るよりも工場で働いていた方が安心できる、という親の気持ちも理解できます。

SRはマルチステークホルダーで

 日本で起きているこうした現状は、バングラディシュの縫製工場やガーナのカカオ農園での児童労働の問題とも似ています。単純に児童労働を摘発したり、工場での年齢確認を徹底するだけでは、子どもたちはより厳しい状況に陥るかもしれません。つまり、企業や消費者が「子どもがつくった製品を買わない」「取り引きしない」というだけでは、子どもたちは行き場を失い、より不安定な状況を招きかねません。子どもが働いている地域の産業や社会の構造をよく研究し、政府や教育関係者などと連携しながら、地域全体で改善のための取り組みを模索していく必要があります。

 環境や労働でのCSRも、企業が単体で取り組めることには限界があります。自社のCSRを進めるためにステークホルダーダイアログを開く企業は多いのですが、企業もステークホルダーのひとつとして、「地域」という視点から解決策を考えていくアプローチがなければ、本当のSRは実現しないのではないでしょうか。


「自治体による多文化共生への取り組みも議論が進んでいる」
 (07年11月・美濃加茂市でのフォーラムの様子)
 岐阜県美濃加茂市長と群馬県大泉町長との対談  コーディネーターは筆者
 *本文とは関係ありません


 次回から、人にも地球にも優しい社会の実現に地域の視点で取り組む内外の事例を紹介しながら、「地域SR」推進のためのヒントを考えてゆきたいと思います。

Posted by CANPAN運営事務局 at 16:29 | CSRな事例 | この記事のURL

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