CSR調達の現状とこれから〜アルプス電気株式会社の取り組み〜 [2008年03月12日(水)]
執筆者:CANPAN運営事務局
■調達ガイドラインの役割と課題
第7回では、CSRガイドラインの大きな傾向について紹介しました。第8回では、サプライチェーン全体のCSR推進における調達ガイドラインの役割について、課題を検証してみます。
元来、CSR調達とは、サプライチェーン全体での社会責任の推進が目的であったはずですが、その一方で、急激な調達基準の変化やガイドライン等による取り引き要領の変更は、中小や地方企業には負担となることもあるようです。
サプライヤーを圧迫することなく、サプライチェーン全体のCSRを推進するための、CSR調達の課題について、調達する側でもあり、調達される側でもあるアルプス電気株式会社(※1 以下、アルプス電気)のCSR調達対応とサプライヤー対応の事例から学んでみます。
■CSRへの過渡期 最少人員で対応
アルプス電気は、電機機器メーカー、自動車メーカー、モバイルメーカーなど国内外の企業に製品を納入しています。自らが部品メーカーであるとともに、サプライヤーから素材や一次加工品を購入しています。(※2)
アルプス電気が部品を納入している発注先からは、それぞれの業界の調達ガイドラインが示されており、それらに対応するため、社内に3名のスタッフ(うち1名は兼任)が大量の関連書類に対応している状態です。
国内外4万人を超える従業員を抱えながら、専任はわずか3名でCSR調達に対応していることについて、経営企画室CSR推進グループの内山光美氏は次のように話されました。
従来のQCD(※3)から、環境調達やCSR調達への急速な変化と、業界や企業によって異なるガイドラインが並行して提供される現状からは、社会全体としてはCSR調達の方向性はまだ定まっていないように感じます。当社としても、品質や安全、環境、J-SOX対応など現場に相当な負荷が掛かっている状況下、CSRに対応する人員を充分に確保することはできないので、最少の人数で情報を一元的に管理することに注力しています。」
同社は2006年を「アルプス電気CSR元年」と定め、CSR推進グループを設置。CSR調達に対応するとともに、環境報告書も同年よりCSR報告書へ改め、内容を大幅に改訂しました。
「これまでも環境への取り組みや社会貢献活動は、事業所単位で行っていましたが、CSRに対する社会の要請が大きくなったことや、CSRという概念のもとで全社統一的な取り組みを行うべきとの判断から、CSR体制を構築して新たなスタートを切りました。」(内山氏)
■サプライヤーアンケートを保留する理由
CSR推進グループでは、国内外の取引先からの調達要請に対応する一方で、アルプス電気自身の2000社を超える国内外の調達先に対しても、2006年度からCSR調達に関するアンケートの準備を進めてきました。対象企業のリストアップも終了し、いつでも実施できる段階にあります。しかし同社では、現在もアンケートの実施を保留しています。
アンケートの実施後は、結果を分析し、双方に有益になるように活用し、フィードバックしていくことが重要。当社グループ各社もできていないことがある中、サプライヤーに要請しても現状では十分な対応は難しい。」(内山氏)
サプライヤーのCSRが推進されていかなければ、アンケート調査は「サプライヤーに対してアンケートを実施した」という単なるパフォーマンスになってしまうと同社では考えているのです。調達される側でもあり、調達する側でもある同社の苦悩が見え隠れします。
■様々な調達ガイドラインをサプライヤーに提示することへの疑問
アルプス電気では、環境に関する事柄については、契約書の中に含むことで調達先への要請を行っています。けれども昨今の調達事情は、環境だけにとどまりません。納入先からは、アルプス電気からサプライヤーへのCSR調達を期待されます。
しかし、そこにひとつの疑問を感じるといいます。
「調達先の中には、規模の小さな事業所もあります。我々が要求されている項目を、そのままサプライヤーに確認を求めれば、それがサプライヤーにとってどれほどの大きな負担になるか身をもってわかっているだけに、慎重にならざるを得ません。」(内山氏)
CSR調達を進めるが故に、担当者が激務を重ねなければいけないような事態は本末転倒です。サプライチェーンの末端に責任を転嫁してしまうようなガイドラインでは、意味がありません。
■CSRに逆行しないCSR調達のために〜業界団体に期待〜
CSR調達ガイドラインは本来、それぞれの企業が本業を通して行うCSR活動を、納入先に伝えるためのコミュニケーションツールであるべきでしょう。
メーカーが各社個別に基準を設けてサプライヤーに報告や順守を求めるのではなく、業界の統一的なガイドラインを作ることでサプライヤーの負担を減らしていくことが期待できるガイドラインに、今後は期待が寄せられています。
途上国の中小企業がISO26000に期待を寄せているのにも、こうした背景があります。
JEITAのガイドラインは業界での統一的ガイドラインに近いものとして活用している企業もありますが、海外における地位が確立されていません。
「個々の企業努力では、限界もあります。内外のガイドラインを統一するなど、サプライヤーの負担が軽減されるような方向での国を超えた業界団体の動きを期待したいです。」(内山氏)
化学物質使用に関するガイドラインと回答ツールであるJGPSSIが展開している「ジョイント・インダストリー・ガイドライン」は、国内の多くの企業が参考にしています。独自の回答フォーマットを作成している企業もありますが、JGPSSIの作成したフォーマットをそのまま利用する企業も見受けられます。
企業と企業の間に立つことのできる業界団体には、次の2点が期待されているといえるのではないでしょうか。
まず第1に、日本国内の企業が共通のCSR調達ガイドラインを活用し、CSRコミュニケーションを進めていく手助けを期待したいです。共通のCSR調達ガイドラインを使う企業が増えるほど、取引先やそれ以外の組織に対しても、負担を軽減しながらCSR情報の伝達を行うことができるはずです。そのような状態を目指したガイドラインの普及促進が望まれます。
そして第2に、日本の企業が活用するCSR調達ガイドラインが、海外企業との調達場面で通用する働きかけも期待されます。海外企業との取り引きにおいても、日本国内のCSR調達で求められた、または提出を受けた企業や製品に関するデータを使うことが出来れば、企業の負担は格段に軽くなるでしょう。
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参考資料
※1 アルプス電気株式会社 (http://www.alps.com/j/)
所在地:東京都大田区雪谷大塚町1-7
従業員数:6,330人(2007年4月1日現在)
※2 アルプス電気「ALPS CSR Report 2006」「ALPS CSR Report 2007」
※3 QCD=Quality(品質)、Cost(価格)、Delivery(納期)
■調達ガイドラインの役割と課題
第7回では、CSRガイドラインの大きな傾向について紹介しました。第8回では、サプライチェーン全体のCSR推進における調達ガイドラインの役割について、課題を検証してみます。
元来、CSR調達とは、サプライチェーン全体での社会責任の推進が目的であったはずですが、その一方で、急激な調達基準の変化やガイドライン等による取り引き要領の変更は、中小や地方企業には負担となることもあるようです。
サプライヤーを圧迫することなく、サプライチェーン全体のCSRを推進するための、CSR調達の課題について、調達する側でもあり、調達される側でもあるアルプス電気株式会社(※1 以下、アルプス電気)のCSR調達対応とサプライヤー対応の事例から学んでみます。
■CSRへの過渡期 最少人員で対応
アルプス電気は、電機機器メーカー、自動車メーカー、モバイルメーカーなど国内外の企業に製品を納入しています。自らが部品メーカーであるとともに、サプライヤーから素材や一次加工品を購入しています。(※2)アルプス電気が部品を納入している発注先からは、それぞれの業界の調達ガイドラインが示されており、それらに対応するため、社内に3名のスタッフ(うち1名は兼任)が大量の関連書類に対応している状態です。
国内外4万人を超える従業員を抱えながら、専任はわずか3名でCSR調達に対応していることについて、経営企画室CSR推進グループの内山光美氏は次のように話されました。
従来のQCD(※3)から、環境調達やCSR調達への急速な変化と、業界や企業によって異なるガイドラインが並行して提供される現状からは、社会全体としてはCSR調達の方向性はまだ定まっていないように感じます。当社としても、品質や安全、環境、J-SOX対応など現場に相当な負荷が掛かっている状況下、CSRに対応する人員を充分に確保することはできないので、最少の人数で情報を一元的に管理することに注力しています。」
同社は2006年を「アルプス電気CSR元年」と定め、CSR推進グループを設置。CSR調達に対応するとともに、環境報告書も同年よりCSR報告書へ改め、内容を大幅に改訂しました。
「これまでも環境への取り組みや社会貢献活動は、事業所単位で行っていましたが、CSRに対する社会の要請が大きくなったことや、CSRという概念のもとで全社統一的な取り組みを行うべきとの判断から、CSR体制を構築して新たなスタートを切りました。」(内山氏)
■サプライヤーアンケートを保留する理由
CSR推進グループでは、国内外の取引先からの調達要請に対応する一方で、アルプス電気自身の2000社を超える国内外の調達先に対しても、2006年度からCSR調達に関するアンケートの準備を進めてきました。対象企業のリストアップも終了し、いつでも実施できる段階にあります。しかし同社では、現在もアンケートの実施を保留しています。
アンケートの実施後は、結果を分析し、双方に有益になるように活用し、フィードバックしていくことが重要。当社グループ各社もできていないことがある中、サプライヤーに要請しても現状では十分な対応は難しい。」(内山氏)
サプライヤーのCSRが推進されていかなければ、アンケート調査は「サプライヤーに対してアンケートを実施した」という単なるパフォーマンスになってしまうと同社では考えているのです。調達される側でもあり、調達する側でもある同社の苦悩が見え隠れします。
■様々な調達ガイドラインをサプライヤーに提示することへの疑問
アルプス電気では、環境に関する事柄については、契約書の中に含むことで調達先への要請を行っています。けれども昨今の調達事情は、環境だけにとどまりません。納入先からは、アルプス電気からサプライヤーへのCSR調達を期待されます。
しかし、そこにひとつの疑問を感じるといいます。
「調達先の中には、規模の小さな事業所もあります。我々が要求されている項目を、そのままサプライヤーに確認を求めれば、それがサプライヤーにとってどれほどの大きな負担になるか身をもってわかっているだけに、慎重にならざるを得ません。」(内山氏)
CSR調達を進めるが故に、担当者が激務を重ねなければいけないような事態は本末転倒です。サプライチェーンの末端に責任を転嫁してしまうようなガイドラインでは、意味がありません。
■CSRに逆行しないCSR調達のために〜業界団体に期待〜
CSR調達ガイドラインは本来、それぞれの企業が本業を通して行うCSR活動を、納入先に伝えるためのコミュニケーションツールであるべきでしょう。
メーカーが各社個別に基準を設けてサプライヤーに報告や順守を求めるのではなく、業界の統一的なガイドラインを作ることでサプライヤーの負担を減らしていくことが期待できるガイドラインに、今後は期待が寄せられています。
途上国の中小企業がISO26000に期待を寄せているのにも、こうした背景があります。
JEITAのガイドラインは業界での統一的ガイドラインに近いものとして活用している企業もありますが、海外における地位が確立されていません。
「個々の企業努力では、限界もあります。内外のガイドラインを統一するなど、サプライヤーの負担が軽減されるような方向での国を超えた業界団体の動きを期待したいです。」(内山氏)
化学物質使用に関するガイドラインと回答ツールであるJGPSSIが展開している「ジョイント・インダストリー・ガイドライン」は、国内の多くの企業が参考にしています。独自の回答フォーマットを作成している企業もありますが、JGPSSIの作成したフォーマットをそのまま利用する企業も見受けられます。
企業と企業の間に立つことのできる業界団体には、次の2点が期待されているといえるのではないでしょうか。
まず第1に、日本国内の企業が共通のCSR調達ガイドラインを活用し、CSRコミュニケーションを進めていく手助けを期待したいです。共通のCSR調達ガイドラインを使う企業が増えるほど、取引先やそれ以外の組織に対しても、負担を軽減しながらCSR情報の伝達を行うことができるはずです。そのような状態を目指したガイドラインの普及促進が望まれます。
そして第2に、日本の企業が活用するCSR調達ガイドラインが、海外企業との調達場面で通用する働きかけも期待されます。海外企業との取り引きにおいても、日本国内のCSR調達で求められた、または提出を受けた企業や製品に関するデータを使うことが出来れば、企業の負担は格段に軽くなるでしょう。
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参考資料
※1 アルプス電気株式会社 (http://www.alps.com/j/)
所在地:東京都大田区雪谷大塚町1-7
従業員数:6,330人(2007年4月1日現在)
※2 アルプス電気「ALPS CSR Report 2006」「ALPS CSR Report 2007」
※3 QCD=Quality(品質)、Cost(価格)、Delivery(納期)



