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海外企業の最新動向にみるCSR経営の行方[2008年01月16日(水)]

 連載: CSRの海外動向

執筆者:伊吹 英子

株式会社野村総合研究所
経営コンサルティング部 主任コンサルタント
E-mail: e-ibuki@nri.co.jp


海外企業の最新動向にみるCSR経営の行方


CSR経営が叫ばれて久しい。野村総合研究所は、2007年11月に欧米の先進的なグローバル企業・研究機関を訪問調査し、“社会的課題を解決しながら利益を生み出すための事業コンセプト”に関するグローバル・ケーススタディを実施した。

本調査は、CSRという概念にとらわれず、グローバル先進企業が、事業戦略の一環としてどのように社会的課題に取り組んでいるかを探るものであった。調査の結果、CSRとの関連において非常に印象的であったポイントのいくつかをここで紹介したい。ここでは主に欧州企業の最新動向から今後のCSR経営の行方を探ってみよう。


◆ロングタームの事業戦略として取り組む

第1に、複数の欧州企業においては、CSR的イニシアチブがCSRではなく、“ロングタームの事業戦略として”遂行されている。すなわち、“時間軸”を使って、CSRを事業戦略の延長線上に明確に位置づけている。

たとえば、世界的な食品・飲料企業であるネスレ(本社:スイス)は、CSR的イニシアチブをCSRとは呼ばず、完全なロングタームの事業戦略として実践している。ネスレにとって、CSRは、完全に事業戦略に統合され、Creating Shared Value 戦略と呼ばれ実行されている。これは、“社会にとっての価値”をつくりだすと共に、“株主にとっての価値”をも作り出す“価値向上戦略”として位置づけられたものである。

また、ノキア(本社:フィンランド)においても、CSRを事業戦略として捉えている。CSRイシューは、企業全体の戦略遂行に毎日影響を与えているため、事業戦略を考える際には、当然のように環境や社会的な要素を考慮する。しかし、短期的に利益を追求する戦略ではないという。

彼らが言うロングタームとは、一体どれくらいなのだろうか。いくつかの欧州企業に質問を投げかけると、概ね3〜5年程度という答えが返ってきた。ロングタームといっても中期的観点からの事業戦略として位置づけられていることがうかがえる。

それでは、短期・財務志向のみに陥りがちな視点をなぜ中長期に保ちダイナミックな投資を行えるのだろうか。ネスレは、スイスという国がもともと、ロングターム志向の風土があることも影響し、企業哲学として、ロングタームの思考を通じて利益を上げていくというビジネスを志向している。製品をつくるだけではなく、社会にとっての価値、農業従事者、労働者、地域社会、社会にとっての価値を創出していくことを考えていく必要があるという。


◆将来を予測し、真の事業課題として認知する

第2に、将来の事業環境を見据えた経営判断が行われていることである。
先に述べたロングターム志向であるが、実は、ネスレが考えるようなロングターム志向は、日本企業においても、普段から実践されていることと思う。しかし、なぜか、ダイナミックな投資に踏み切れないケースが多い。欧州企業経営者はなぜ、確信をもって投資に踏み出せるのか。

ネスレに限らず、欧州企業経営者は、社会的課題に取り組むことが、将来、自社の持続的発展にも強く影響を及ぼすことを十分に予測・認知し、社会的課題の解決に向けて中期的な視点からダイナミックな投資を行うことの経済的価値に対して確信を持っている。

ある欧州シンクタンクの担当者は、企業経営者を説得するにあたって、「社会的課題の解決を真の事業課題(true business issue)として経営的に位置づけて経営者を説得しなければならない。その取り組みが、サプライチェーンの上流、下流にどのようなインパクトを与えるのかを伝えなければならない。そうすれば、彼らは意義を理解するようになる」と言う。

将来の市場の変遷や、事業環境のシナリオを多様な観点から予測し、より鋭敏な視点で社会的課題への取り組みの必要性を認知する姿勢は、日本の企業経営者にとっても今後一層その必要性が増していくに違いない。


◆合理的な推進体制

第3に無理のない合理的な推進体制が組まれていることである。
日本でもCSRと事業の一体化が叫ばれているものの、実際には、CSR部門と事業部門の連携は簡単なものではない。

ある欧州の製薬企業担当者は、業績評価の仕組みにCSRの要素が明確に組み込まれていることが連携には欠かせない要素、と強調する。ロングタームで経済的価値が見込めるからといって、事業部門は、どうしても短期的・財務的志向にならざるを得ないケースが多い。

しかし、企業全体としてはロングタームでの取り組みに現場を説得し巻き込みながら実践しなければならない。同社では、業績評価の仕組みのなかにCSRの要素が明確に組み込まれているため、ロングタームの取り組みに事業部門が積極的に取り組むインセンティブがあり、積極的な協力体制が実現しているという。

また、ある企業では、そもそもCSR部門は明確には存在せず、経営陣からの指示に基づき、ワーキンググループが設置され、さまざまなイニシアチブが遂行されているという。これらは、社会的意義は前提としながらも、ロングタームの経済的価値が見込まれる戦略が経営陣レベルで明確に組み立てられていることが、CSR部門がなくとも、ワーキンググループで実行できる要因だという。

他の企業では、グローバル戦略の一環としてCSRが位置づけられているため、CSR部門とグローバル戦略担当部門が協力して、途上国でのCSRイニシアチブを遂行しているという。
このように、推進体制は、各社各様であるが、いずれも、効率的な推進体制を確立するために、イニシアチブに参画する関連部門のインセンティブを考慮したり、合理性を重んじ、無理のない体制で遂行されていることが印象的であった。

CSRを実践するのは、CSR部門ではなく、事業部門なり、現場である。CSR部門は旗振り役にすぎない。事業とCSRが一体化し、事業戦略としても機能するようになるにつれ、CSR部門と現場との接点は増え、高度かつ密な連携がますます必要になってくる。実際に、訪問した企業でCSRの推進体制を訊ねると、“社員全員だ”と笑いながら答える企業がいくつもあった。これが、事業とCSRの一体化している企業の一端を表した答えなのだろう。


(出所)本事例の情報は、NRI現地調査(2007年)および公開情報に基づく。

(参考)野村総合研究所伊吹英子著『CSR経営戦略―「社会的責任」で競争力を高める』東洋経済新報社、2005年

Posted by CANPAN運営事務局 at 10:00 | CSRの傾向と対策 | この記事のURL

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