本業を軸にCSRの戦略を考える[2007年07月18日(水)]
連載: CSRの海外動向
◆日本企業のCSRは「真価」が問われる段階へ移行
CSR元年と呼ばれ“CSR”がもてはやされてから早4年半が過ぎようとしている。日本企業は、CSRの推進体制や基本方針を整え、CSR報告書を発行するなど、意欲的にCSRの強化に取り組んできている。
しかし、CSRを強化したことにより企業が獲得できる経営成果は、短期的ではなく、むしろ中長期的に経営に効果が現れてくる。したがって、これまでの取り組みが果たして正しい方向で推進されたか否かは今後問われることになる。日本企業は、CSRを強化したことの「真価」を社内外から厳しく問われる段階へと移行する。
◆CSRの「真価」とは、ステークホルダーの声を取り入れることで
経営に現れる成果
CSRの「真価」とは、一体何だろうか。CSRの「真価」とは、ステークホルダーをより意識した経営を実践することによって「経営がどのように進化し、それにより企業の経営にどのような成果が現れたか」である。経営は常に進化し続けなければならない。顧客から支持される、従業員の満足度が高まる、地域社会から信頼されるなど、その内容は、企業を取り巻く社会環境や経営環境に応じてさまざまである。
CSRを強化することの価値とは、ステークホルダーの声を経営に取り入れることにより、これまでにない新しい視点から企業経営の質を高めていくことができることであり、企業の持続的発展に効果をもたらすことである。
本連載では、海外の先進企業の動向を紹介し、「真価」が問われる時代において、日本企業のCSR活動や、将来的に企業と関わる可能性のあるステークホルダーの活動に参考となるヒントを見つけていきたい。

図:CSRに取り組むことで獲得できる成果
◆本業を軸にCSRの戦略を考える−(1)
オランダ・フィリップスの事例から
「真価」を問われる段階において、忘れてはならないことは、本業を軸にCSRの戦略を考えることである。
たとえば、オランダに本社を置く欧州の大手電機メーカーのフィリップスでは、本業に関わる社会的課題の解決に積極的に取り組んでいる。同社は、創業の精神に「人々の生活の質の向上」を掲げ、自社の保有する「技術」が人々の生活の質の向上に果たせる役割に着目している。同社は、世界60カ国以上でグローバルに事業を展開しているが、さまざまな社会的課題を抱える発展途上国市場に着目し、自社技術を活用した課題解決に取り組んでいる。
一例として、照明機器工場があるブラジル北東部のスラム街での取り組みがある。このスラム街は、経済発展に取り残され、通信、医療などの社会基盤が極めて不十分な環境にある。そこで、同社は、スタンフォード大学や、地域のNGO、学校や医療機関などを積極的なパートナーシップを構築し、ITを活用したスラム街の社会開発を支援し、さまざまな通信手段の整備に力を注いだ。これにより、スラム街における通信手段が整備され、生活サービスへのアクセスが格段に向上した。
こうした取り組みは、フィリップスにとっても、同社の製品・サービスが今後この地域に受け入れられる顧客基盤を築くことにつながり、自社の将来的な事業機会へと発展することにもなる。このように、本業を軸にCSRの戦略を考えることによって、企業と社会の双方に対して価値をもたらすことができる。
◆本業を軸にCSRの戦略を考える−(2)
デンマーク・ノボ ノルディスク ファーマの事例から
デンマークに本社を置く、製薬企業であるノボ ノルディスク ファーマも先進的な企業としてその取り組みが注目される。同社が掲げるサステナビリティのビジョンは、「糖尿病の撲滅」である。同社は、糖尿病薬を取り扱っており、財務の健全性だけではなく、世界中の糖尿病患者の置かれている医療事情の改善という社会的責任の健全性、声望行としての環境に対する健全性のいわゆるトリプルボトムラインを満たすビジネスモデルを追求している。
その一環として、高齢化、不健康な食生活、肥満、運動不足などの生活習慣に起因する糖尿病が蔓延するのを食い止めるための糖尿病に対する意識啓発や、医療事情改善への取り組みを展開している。
一例として、中国では、糖尿病患者の急増に追いつかない医療体制、予防体制に対して、医療従事者および、糖尿病患者に対する糖尿病の生活指導、教育、認知向上の機会提供を行ってきた。また、広く、一般社会に対しては、メディアをはじめとする社外機関とタイアップして、糖尿病の克服という共通の目標のもとで積極的な情報発信を行っている。
こうした取り組みは、糖尿病ケアの一躍を担う地位を確立することにつながり、同社の掲げるトリプルボトムラインの実現にもつながっている。
◆自分たちが解決すべき社会的課題を見出だすことが重要
当然のことながら、日本企業が置かれている環境は、制度や政策、文化・風土などが海外企業とは異なることから、本連載で紹介している海外事例が必ずしもそのまま生かせるということではない。
しかし、両社の事例にみられるように、本業のなかで自社の強みを発揮して取り組める課題を見出すことは、CSRの戦略的展開において極めて重要な要素である。
あるアメリカの大手金融機関の担当者は、「われわれが社会の課題をすべて解決できるとは思っていない。自分たちでなければ解決できない課題、自分たちが解決すべき課題、自分たちの強みが発揮できる課題を見出し、それに取り組むことが大切である」と語っている。
本業を軸に、自分たちが解決すべき課題をしっかりと見出し、戦略性と先見性を持って取り組んでいくことが、CSRの真価を生み出すひとつのヒントとなる。
次回は、顧客を通じて競争力を高めている事例を紹介したい。
(出所)本事例の情報は、 NRI現地調査(2004年)および公開情報に基づく。



