ISO26000にNGOが参加することの意義[2007年07月04日(水)]
執筆者:今田克司 (CSOネットワーク 共同事業責任者)
今年1月下旬にオーストラリアのシドニーでISO(国際標準化機構)のSR(社会的責任)に関する規格、ISO26000の策定にむけた第4回総会が開かれました。この時点で登録されているエキスパートが355人にのぼることは前回ご紹介しました。
多様なステークホルダーとNGO
このうち、NGOのエキスパートは63人で六者構成のなかでは産業界、SSRO(サービス、サポート、研究その他)(*1)、政府に次いで多い数字となっています。

著者作成
そもそもSRの規格策定をISOが検討し始めたのは2001年のことで、ISOの消費者政策委員会(COPOLCO)にCSR(企業の社会的責任)に関する国際規格をISOが開発することが妥当かどうか、検討を求めたのが発端です。2002年後半になって、COPOLCOは、「イエス」の回答とともに、さらなる検討を重ねるために多様なステークホルダーにより構成される諮問委員会を結成することを勧告しました。
いうまでもなく、CSRの考えの根幹には、組織としての企業体が責任を果たすべき相手として、従来より視野に入っていた株主、従業員、消費者といった直接的な利害関係者にとどまらず、より広く企業活動によって影響が及ぶ人々、あるいは逆に企業が影響を受ける人々や団体のことが取りざたされてきたという経緯があります。ステークホルダーという考え方の浸透です。
ステークホルダーには、多様な人々や団体が、あるいはときには「自然環境」とか「将来世代」とか、現存しない主体までもが含まれます。それらの人々の「利害」を捉えることは決して単純ではありません。そこでしばしばNGOが、そういった多様な利害の、少なくとも一部を代弁する存在として登場してきました。
ISO26000の策定過程には、CSRを直接担う企業、労働者の利害を代表する労働組合、消費者の利害を代表する消費者団体、規制をつくる権限をもつ政府が加わっています。これらに加えて、NGOが参加しているのは、こういった直接的な利害関係者の利害だけではCSRを規定できないという意識のあらわれといえるでしょう。なお、これら五者に加え、CSRに関する研究を推進したり支援の枠組みをつくったり、それをサービスとして提供するSSROが六者目としてかかわっています。
代弁者としてのNGOと途上国の声
ステークホルダーを広範に捉え、多様な主体の代弁者としてNGOが規格の策定過程に組み入れられていると言いましたが、これに関して二点、注意を喚起したいと思います。
ひとつは、NGOといえども千差万別で、ここでいう「代弁者」として能力や力量にもかなりばらつきがあるということです。NGO自身のSRが問題とされることも多く、これはCSRからSRへという流れに呼応しています(この点に関しては次回で述べます)。
そこでISO/SRでは、グローバル化が進む現代において特に弱い立場に立たされることの多い途上国の声にしっかり耳を傾けることにも注意を払っています。オブザーバー参加国を除き、先進国でISO/SR策定に参加しているのは第1回総会後の2005年3月の時点で22カ国。これが第4回総会時点では28カ国に漸増しています。
一方、途上国の参加国は、同時期に21カ国から37カ国へ急増しました。また、リエゾン団体を除き、国単位で登録されているエキスパートの数を見ると、第2回総会以降、先進国エキスパートが123、137、141と推移しているのに対し、途上国エキスパートは110、125、159と増えており、シドニー総会時点で先進国を上回っています。旅費の問題等で、実際に総会に参加できる途上国エキスパートは先進国に比べてまだまだ少ないのが現状ですが、ようやく旅費の援助等も実現しつつあり、先進国と途上国のバランスはさらに改善されていくことが期待されています。
マルチステークホルダー・アプローチ
注意を喚起したい2点目は、6分の1の存在としてのNGOが、SRのすべての局面において多様な主体の代弁者たる役割を担っているわけでは決してないということです。ISO/SRの策定過程のようなマルチステークホルダーのアプローチにおいては、それぞれが、それぞれの立場を超えて、単なる妥協の産物でない「よりよい」規格づくりに専心することが必要です。もちろん、さまざまな場面で利害が対立することも決してめずらしくはありませんが、自分の利害だけ主張していたのでは、規格が誕生しないことをこれにかかわっている人はすべて知っています。
昨今、従来の対立型に代わって、利害の異なる人々が一堂に会して解決策を探ったり新しい枠組みをつくるこのアプローチがよく見られるようになってきました。そこでは、NGOも、労働組合も、消費者団体も、そして政府や企業も、持続的な社会をつくっていくためのアクターとして専門性を投入し、影響力を行使していくことが求められているのです。
NGO参加の意義と日本
NGOとしてシドニー会議にも参加したエキスパート2名が、NGOの立場から見たISO26000の概要について、3月にペーパーを発表しています(*2)。そのなかで、ISO26000がガイダンス規格という「弱い」規格になっていること(*3)はNGOとしては肯定的には捉えられないとしつつも、NGOがこれに積極的に参加すべき意義として次の4点をあげています。
(1)途上国の参加が活発なマルチステークホルダー・プロセスであること、
(2)特に途上国において、ISO26000がNGOに自国の産業界、政府、その他のステークホルダーとダイアローグを推し進めるきっかけを与えていること、
(3)ISO26000がCSRあるいはSRに関する議論を旧来の「慈善」や「フィランソロピー」の枠を超えた時代の最先端を行くものに仕立てていること、
(4)ISO26000は大きな多国籍企業をはじめ、中小企業、政府・自治体、NGOなどの多くの国の異なる組織がガイダンスとして活用することが予測され、ゆえにその中身が大事なこと、です。
このような観点からも、途上国や日本国内の「現場」を知り、弱い立場におかれている人々の代弁者として、日本のNGO/NPOがこの策定過程に参加していくことが求められています。期待に応えるべく、日本のNGO/NPOのあいだで議論を進めていくことが必要になっているのです。
*1:前回のコラムでは「専門家その他」としていましたが、読者のみなさんにISO用語に慣れていただくためにも、ISOで使われているSSRO(Service, Support, Research and Others)を今後は使います
*2:Bart Slob & Gerard Oonk, The ISO Working Group on Social Responsibility: Developing the Future ISO SR 26000 Standard, Briefing Paper, March 2007
http://inni.pacinst.org/inni/corporate_social_responsibility/ISOSRWGBriefingPaperEn.pdfよりダウンロード可。
*3:前回のコラムで、「ガイダンス規格」であることに関しては「次回」説明しますと言いましたが、紙面の都合で、次回第3回に繰り延べといたします。
*筆者が2月に大阪と東京で行ったNPONGO向け報告会の資料は、CSOネットワークのホームページ(http://www.csonj.org)からご覧になれます。 また、この規格の概要については、日本規格協会のホームページ(http://www.jsa.or.jp/stdz/sr/sr.asp)をご覧ください。ISO26000-SR について(英文)は、http://www.iso.org/sr、ISO26000-SR の公開の作業文書(英文)は、 http://www.iso.org/wgsr からご覧になれます。
*日本のNPO/NGOとして、ISO26000に関する情報交換を行い、いかに成立過程にかかわっていくかを議論するメーリングリストが立ち上がっています。参加ご興味の方は、npongo-sr@jnpoc.ne.jpまでご氏名、ご所属、連絡先を添えてメールをお送りください。
今年1月下旬にオーストラリアのシドニーでISO(国際標準化機構)のSR(社会的責任)に関する規格、ISO26000の策定にむけた第4回総会が開かれました。この時点で登録されているエキスパートが355人にのぼることは前回ご紹介しました。
多様なステークホルダーとNGO
このうち、NGOのエキスパートは63人で六者構成のなかでは産業界、SSRO(サービス、サポート、研究その他)(*1)、政府に次いで多い数字となっています。

著者作成
そもそもSRの規格策定をISOが検討し始めたのは2001年のことで、ISOの消費者政策委員会(COPOLCO)にCSR(企業の社会的責任)に関する国際規格をISOが開発することが妥当かどうか、検討を求めたのが発端です。2002年後半になって、COPOLCOは、「イエス」の回答とともに、さらなる検討を重ねるために多様なステークホルダーにより構成される諮問委員会を結成することを勧告しました。
いうまでもなく、CSRの考えの根幹には、組織としての企業体が責任を果たすべき相手として、従来より視野に入っていた株主、従業員、消費者といった直接的な利害関係者にとどまらず、より広く企業活動によって影響が及ぶ人々、あるいは逆に企業が影響を受ける人々や団体のことが取りざたされてきたという経緯があります。ステークホルダーという考え方の浸透です。
ステークホルダーには、多様な人々や団体が、あるいはときには「自然環境」とか「将来世代」とか、現存しない主体までもが含まれます。それらの人々の「利害」を捉えることは決して単純ではありません。そこでしばしばNGOが、そういった多様な利害の、少なくとも一部を代弁する存在として登場してきました。
ISO26000の策定過程には、CSRを直接担う企業、労働者の利害を代表する労働組合、消費者の利害を代表する消費者団体、規制をつくる権限をもつ政府が加わっています。これらに加えて、NGOが参加しているのは、こういった直接的な利害関係者の利害だけではCSRを規定できないという意識のあらわれといえるでしょう。なお、これら五者に加え、CSRに関する研究を推進したり支援の枠組みをつくったり、それをサービスとして提供するSSROが六者目としてかかわっています。
代弁者としてのNGOと途上国の声
ステークホルダーを広範に捉え、多様な主体の代弁者としてNGOが規格の策定過程に組み入れられていると言いましたが、これに関して二点、注意を喚起したいと思います。
ひとつは、NGOといえども千差万別で、ここでいう「代弁者」として能力や力量にもかなりばらつきがあるということです。NGO自身のSRが問題とされることも多く、これはCSRからSRへという流れに呼応しています(この点に関しては次回で述べます)。
そこでISO/SRでは、グローバル化が進む現代において特に弱い立場に立たされることの多い途上国の声にしっかり耳を傾けることにも注意を払っています。オブザーバー参加国を除き、先進国でISO/SR策定に参加しているのは第1回総会後の2005年3月の時点で22カ国。これが第4回総会時点では28カ国に漸増しています。
一方、途上国の参加国は、同時期に21カ国から37カ国へ急増しました。また、リエゾン団体を除き、国単位で登録されているエキスパートの数を見ると、第2回総会以降、先進国エキスパートが123、137、141と推移しているのに対し、途上国エキスパートは110、125、159と増えており、シドニー総会時点で先進国を上回っています。旅費の問題等で、実際に総会に参加できる途上国エキスパートは先進国に比べてまだまだ少ないのが現状ですが、ようやく旅費の援助等も実現しつつあり、先進国と途上国のバランスはさらに改善されていくことが期待されています。
マルチステークホルダー・アプローチ
注意を喚起したい2点目は、6分の1の存在としてのNGOが、SRのすべての局面において多様な主体の代弁者たる役割を担っているわけでは決してないということです。ISO/SRの策定過程のようなマルチステークホルダーのアプローチにおいては、それぞれが、それぞれの立場を超えて、単なる妥協の産物でない「よりよい」規格づくりに専心することが必要です。もちろん、さまざまな場面で利害が対立することも決してめずらしくはありませんが、自分の利害だけ主張していたのでは、規格が誕生しないことをこれにかかわっている人はすべて知っています。
昨今、従来の対立型に代わって、利害の異なる人々が一堂に会して解決策を探ったり新しい枠組みをつくるこのアプローチがよく見られるようになってきました。そこでは、NGOも、労働組合も、消費者団体も、そして政府や企業も、持続的な社会をつくっていくためのアクターとして専門性を投入し、影響力を行使していくことが求められているのです。
NGO参加の意義と日本
NGOとしてシドニー会議にも参加したエキスパート2名が、NGOの立場から見たISO26000の概要について、3月にペーパーを発表しています(*2)。そのなかで、ISO26000がガイダンス規格という「弱い」規格になっていること(*3)はNGOとしては肯定的には捉えられないとしつつも、NGOがこれに積極的に参加すべき意義として次の4点をあげています。
(1)途上国の参加が活発なマルチステークホルダー・プロセスであること、
(2)特に途上国において、ISO26000がNGOに自国の産業界、政府、その他のステークホルダーとダイアローグを推し進めるきっかけを与えていること、
(3)ISO26000がCSRあるいはSRに関する議論を旧来の「慈善」や「フィランソロピー」の枠を超えた時代の最先端を行くものに仕立てていること、
(4)ISO26000は大きな多国籍企業をはじめ、中小企業、政府・自治体、NGOなどの多くの国の異なる組織がガイダンスとして活用することが予測され、ゆえにその中身が大事なこと、です。
このような観点からも、途上国や日本国内の「現場」を知り、弱い立場におかれている人々の代弁者として、日本のNGO/NPOがこの策定過程に参加していくことが求められています。期待に応えるべく、日本のNGO/NPOのあいだで議論を進めていくことが必要になっているのです。
(この項つづく)
*1:前回のコラムでは「専門家その他」としていましたが、読者のみなさんにISO用語に慣れていただくためにも、ISOで使われているSSRO(Service, Support, Research and Others)を今後は使います
*2:Bart Slob & Gerard Oonk, The ISO Working Group on Social Responsibility: Developing the Future ISO SR 26000 Standard, Briefing Paper, March 2007
http://inni.pacinst.org/inni/corporate_social_responsibility/ISOSRWGBriefingPaperEn.pdfよりダウンロード可。
*3:前回のコラムで、「ガイダンス規格」であることに関しては「次回」説明しますと言いましたが、紙面の都合で、次回第3回に繰り延べといたします。
*筆者が2月に大阪と東京で行ったNPONGO向け報告会の資料は、CSOネットワークのホームページ(http://www.csonj.org)からご覧になれます。 また、この規格の概要については、日本規格協会のホームページ(http://www.jsa.or.jp/stdz/sr/sr.asp)をご覧ください。ISO26000-SR について(英文)は、http://www.iso.org/sr、ISO26000-SR の公開の作業文書(英文)は、 http://www.iso.org/wgsr からご覧になれます。
*日本のNPO/NGOとして、ISO26000に関する情報交換を行い、いかに成立過程にかかわっていくかを議論するメーリングリストが立ち上がっています。参加ご興味の方は、npongo-sr@jnpoc.ne.jpまでご氏名、ご所属、連絡先を添えてメールをお送りください。



