• もっと見る

2019年05月31日

新幹線トンネル工事に伴う個人的懸念

 北海道新幹線工事が進んでいます。
本町でも、秋からトンネル工事が始まりますが、個人的に懸念もあります。
 そのことを、機構、道新幹線局長に公開でお伝えしました。



拝啓、鉄道建設運輸施設整備機構北海道新幹線局長殿

(待望の新幹線)
北海道新幹線函館札幌間の延伸工事が10年後の開通を目途に進んでい
ます。

人口100万以上の都市で、新幹線駅が無いのは、道都札幌だけで、高
速鉄道網の遅れは、北海道経済の発展に、中央の経済力を十分に取り
込めない要因の一つとなっていたと思います。

 函館と札幌の中間に位置する本町においては、先進医療、高等教育
、都市型の文化等を容易に享受することが可能となる一方、都市には
無い、豊かな自然とそこで営まれる田園ツーリズムを、都市生活者や
外国人観光客に提供できる高速交通インフラの充実に繋がることでし
ょう。
 そう言った意味で、町を上げて、工事の計画的な推進を、強く望ん
でいるところだと思います。

(北海道新幹線工事の特徴)
 当新幹線は、豪雪地帯における冬場の走行遅れ回避等から、76パー
セントがトンネルで、湧水や排水処理対策等、リニア工事に匹敵する
ような難工事だと関係者の間では囁かれてきました。
 地元との調整事項も多く、とりわけ、最大の課題は、予想を超える
湧水と、自然由来の重金属を含む掘削ズリ粉末のお濁水や中和・凝固
沈殿剤の化学的処理、ズリの受け入れ地や処分方法の問題で、受け入
れ地については、全区間の46パーセント分が、未定との報道がなされ
ています。
 噴火湾沿岸は、流入河川長が短く、ホタテ稚貝の斃死により、水質
汚染が伴うトンネル工事にナーバスになっておりますが、後志管内は
、イトウや川真珠貝等の絶滅危惧種が生息する等、生物多様性のホッ
トスポットが連続しているにも関わらず、リゾート開発や農地の基盤
整備等、表土移動の民間開発行為が多く、トンネル工事特有の環境影
響の特異性については、さほど関心を持たれず、寛容な受け入れとな
っているのでしょう。
 
(本町掘削土受け入れ地等の懸念)
 本町においては、旧町営牧場内の地目原野の緩斜面二カ所が受け入
れ地となっています。
 受け入れ地決定までには、地元の意向調査、環境影響評価、利害関
係者とのコンセンサス等、国の示すマニュアル等に沿い、行政手続き
を経て、着工認可、入札に至ったと思います。

 私事ですが、三十余年前に、青函トンネル濁水処理の研究を行う教
授の実証実験を、隣室で勤務していた関係で、垣間見る経験をしまし
た。
 その後、地方自治体職員として、複数の特定開発行為事務や国内外
の環境分野のエキスパートから、知見をいただき、環境基本計画等の
策定に関わった経験から、二つの懸念事項がございます。

 一つは、空撮地図で判別できますが、受け入れ地と、絶滅種である
川真珠貝の生息する朱太川と近接し、永年に渡って、有害金属が溶出
し、浸透水の影響を、環境基準以下であっても、貝が受けないかとい
う点であります。
 二つ目は、受け入れ地から、直線で1,5キロ下流域に、道水資源保全
条例で保全区域として指定されている区域、さらには、3,5キロ下流に
も、同様に指定されている区域があり、高度な専門的技術集団を抱え、
地下水をも含む環境対策としての知見が豊富な機構として、回避判断
を取らなかった事に対する違和感です。
 機構の初歩的なリスク回避として、保全地域または近傍は避けるのが
原則だと思うのですが、代替地を求めることは不可能だったのでしょう
か。

(日本の土地利用関連法律の遅れ)
 我国の土地利用に関する法律では、国立公園等は別として、農村部に
おいては、経済活動優先、かつ所有者の権利保障が根底にあり、国立公
園に勝るとも劣らない優れた自然を、ホットスポット的に有していても、
環境省の選定に止まり、都道府県や市町村の上乗せや、横出し条例等に
よって、規制が強化されるだけで、欧米と異なり、法的システムとして
国、都道府県、市町村の連携した、田園環境や景観のランドスケープ観
の共有はおろか、省庁間の事前の情報共有はなく、事業者と現場の自治
体の協議に委ねているのが現実です。(法の遅れを自治体の条例で埋め合
わせ)
 高度成長期の開発優先の法体系が優先し、農村の環境対策や景観形成
で、大幅に欧米に後れをとっていることは、20年ほど前から政府の研究
チームが報告しているところであります。

(懸念払拭のための提案)
 工事が入札、発注された今、懸念を払拭できる残された手立ては、限
られていると思いますが、数点、提案させていただきます。
 環境影響評価調査の委託変更を行い、追加で、水源保全地域外縁の浅
層水と深層水の因果関係を概略、明らかにし、其々、バックグランド値
と、工事完了後、10年程度の経年変化をモニタリングして、科学的に、
懸念を払しょしていただきたいことが一つです。

 工事途中において、環境基準を超える想定外の事態に備え、受け入れ
ズリの処分方法の見直し、受け入れ場所代替え地の予備確保もありかと
思います。
 また、川真珠貝の定点生息状況調査を工事着手前と、完了後の10年程
度をモニタリングし、絶滅を加速するような重大な異変が予測されるよ
うな事態が発生した場合の措置を検討されては如何かと思います。

(懸念公開の理由)
 私が、OBとして、懸念を公開するのは、本意ではありませんが、小
規模自治体においては、箱物的行政財産と比較し、知的行政財産の継承
と活用が時として、途絶えるという問題があります。
 もっとも、総務、財政、税務、防災、福祉、教育等の分野は、そんな
ことは、ありませんが、環境や景観分野では、起こりうることです。
 特色ある条例や基本計画が、せっかく、税金を投入して整備されたに
もかかわらず、属人化しており、職員の交代、退職、議会議員の知的行
政財産としての認識不足等によって、形骸化します。
 国が行う自治体職員の基礎研修項目にも入っていませんので、致し方
ない面もありますし、災害の多い国土に暮らす国民性から、自然をシス
テマティックに制御しようという心情が、育ちにくいということもある
のかもしれません。
(※知的行政財産という用語はあくまで、私の造語です。)

 本来、本事案の地元コンセンサスは純粋に、同程度の高度な専門的知
見に立って、検証を重ね、冷静に方法論を導き出す性質のものなので、
知見に濃淡のある住民や議会の多数決で決する性格のものではありませ
ん。
 特に生物多様性の分野においては、国内のみならず、国際的に活躍し、
権威ある先生方とのネットワークが構築され、知見を得やすい環境にあ
るのですが、地元に暮らしていると、生物多様性上のホットスポットの
、正当な価値よりも、地域の近視眼的視点に基づくニーズが優先された
政策判断をしがちです。
 先生方に事案を相談し、助言を求め、国家遺産を守るという観点から、
地元の合意にあたること、事案の取次が、私達、地元に暮らすものの主
たる役割なのですが、それを忘れてしまうのです。
 もちろん、私のように、懸念を表明ことを、政党の主義主張にすり替
える問題でもありません。単に、本件の様な事案の場合の、地元合意に
ついて、条例が期待する手続き上の話をしているのですから。
 
 起きたら、その時考えようと投げやりになるかもしれませんが、異常
気象や地震による二次被害、人災を避けることは、防災危機管理上も、
当然の事なのです。

(環境・景観は広域連合事務に)
 欧米においては、この分野のマネジメントを、専門の外郭団体を育成
し、行政資料を貸与、権限を付与し、徹底を図っています。
 機構をはじめとした高度な技術集団と互角に協議できる組織の一つと
して、既存の広域行政組織に組み込むことが考えられます。
 これが実現すると、環境や景観に対する専門性を有した職員を複数常
駐させることができて、調査時点での事前協議が十分行われ、美しい国
土空間の形成に繋がり、現場の工事関係者の苦労、手戻りによる経費削
減にも繋がると思うのです。  
 (後日、この点について、まとめて、アップします。) 
 現在、それぞれの立場、限られた時間の中で、兼務しつつ、現場とな
る地方自治体の職員は様々な行政課題への対応と判断が求められていま
す。

 財務省の三万人削減案は、現場を知らない、暴論ではと思います。

おかれている現状は、重々、承知しておりますが、現行の法律の制度内
で、先述した懸念について、御一考いただき、本町の特異性のある自然
環境への負荷低減を図るべく、提案に沿って、採用可能な手立てを講じ
ていただけるようお切に願いいたします。
 
  
 
 
posted by 若見 at 07:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 北海道
この記事へのコメント
コメントを書く
トラックバックの受付は終了しました

この記事へのトラックバック