固有種の天然アユや川真珠貝が生息する本流にダムの無い朱太川、北限の歌才ブナ林や、昨年、町とナショナルトラスト協会と共同で取得した歌才湿原や、6年前に発見された来馬湿原等の豊かな自然環境と牧草地や畑作地等の農を代表する人の営みが、上手に共存できていることが高く評価されたたとのことです。
しかし、豊かとされる自然、シンボルである歌才ブナ林は、二度も伐採の危機に遭遇していますし、本流にこそダムがないものの、治山治水の目的に、支流には砂防ダムや、三面護岸工事がなされた歴史もあります。
歌才湿原も、戦後の開拓入植地として、払い下げられ、農地にすべく水位を下げる工事がなされましたが、本格的な農地改良の前に、離農が進み、奇跡的に、一部の湿原が残っているのです。
昔、昔には、金山等の鉱山開発で、河川が鉱毒で汚染された歴史もあります。
農地開発や高速道路の工事、畜産事業の進出等で、水質汚染や汚濁もありましたが、アユやヤマメが生息できるようにと、住民有志の危機意識と保全活動が、議会を巻き込み、行政としても、事業者に対して、水質保全への取組を、強く要請し続けてきました。
母なる川である朱太川と人の関わりによる黒松内の川文化が育まれてきたからこそ、今日まで、大切に守られてきたことも多く、環境行政の先進地となったのです。
日照時間が少なく、稲作を展開しにくかったこと、小河川や丘陵と沢の多い地形から、零細規模の酪農と畑作の複合農業を、規模拡大による専業化を進めようとする国策等に、費用対効果面で二の足を踏み、零細農家のままで、離農も進みました。農地の集約化や開発が山間部の一部で行われたものの、管理機器の移動時間ロス等から、成果が上がらず、耕作放棄地化が進んでいます。
農地の分散は解消されず、河川と農地との緩衝雑木林を育み、結果として、河川への環境負荷低減となっていることが、生物の多様性の保全にも結び付いているのです。
このことは、皮肉にも、農業としての生産効率性の低さ、所得の低さ、そして、稀有となった昭和初期ののどかな牧歌的な風景を醸し出しているのです。
非効率な農業を続けざるを得ない本町の農業者に対して、公益的観点から一定の所得補償するのは、重要里地里山の自治体として、当然の帰着だと考えます。
河川の生物多様性が豊かであるということは、里海である寿都町の漁業振興に、持続可能な生態系サービスを提供し続けることになります。海産物で人気のふるさと納税の一部を、我町のこの分野の協力農家さんに、還元しても良いと思います。
里山文化、里川文化、里海文化は、それぞれ、連続したものです。
今回の朗報を、単なる出来事で終わらせることなく、ふるさと納税のメニューに加える等、里地里山の保存・再生につながる多様な政策の充実、財政支援の仕組みが、関係自治体間で、創造されるよう期待してやみません。
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