7月19日「バイオマス燃料調達の課題」セミナーの報告[2016年07月31日(Sun)]
NPO法人農都会議 バイオマスWGは、7月19日(火)夕、バイオマス燃料セミナー「バイオマス燃料調達の現状と課題 〜FIT発電用木質バイオマスの需給見通し」を開催しました。
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CO2削減や林業再興への効果が期待される木質バイオマスエネルギーの利用には、伐採・搬出、輸入・流通、制度・コストなど、解決すべきさまざまな課題があります。バイオマスWGは、本年度から、「バイオマス燃料セミナー」シリーズを開催し、それらの課題を順次取り上げていきたいと思います。
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CO2削減や林業再興への効果が期待される木質バイオマスエネルギーの利用には、伐採・搬出、輸入・流通、制度・コストなど、解決すべきさまざまな課題があります。バイオマスWGは、本年度から、「バイオマス燃料セミナー」シリーズを開催し、それらの課題を順次取り上げていきたいと思います。
会場の港区神明いきいきプラザに約90名の参加者が集まり、パネルディスカッションとして、講演・質疑応答・意見交換が行われました。モデレーターは、NPO法人農都会議理事 バイオマスWG座長の澤一誠氏が務めました。
最初に、筑波大学生命環境系(森林資源経済学)の立花敏氏より、「木質バイオマス輸入の現状と見通し―アジア太平洋地域の木材貿易と木材利用」のテーマでお話がありました。
立花氏は、(1)世界の林産物需給、森林資源とその方向性、(2)日本の林産物需給と方向性などについて概括的な説明を、資料を元に丁寧にされました。
立花氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・世界の丸太生産量は今日までの傾向として緩やかに増加していることから、世界の林産物生産量が減ることはない。
・FITの影響もあり木材需要が増え、現在の需給状況のまま進むと国際的な森林減少といった大きな問題が起きた時に誰も対応できない恐れがあり、日本国内のバイオマス燃料供給面においてトレーサビリティの必要性が高まっている。
・イギリスでは、すでに製材業の半分以上が森林認証を取得しており、オランダでは産業用材について半分以上が認証材にするという目標を掲げ、達成過程にきており針葉樹材は7〜8割が認証を得ている。
・森林資源は再生可能な資源であり、持続可能な社会形成、循環型社会形成には必要不可欠であり、どのような材を、カスケード利用を含めどのように活用するかが重要な課題である。
・世界的な視点でみれば、林産物需要量が世界的に増加している一方で森林面積が減少していることより、需要に見合った持続可能な森林経営を行っていく必要がある。
・国内的な視点でみれば、伐期を迎えた森林をいかに有効活用するかを検討する必要がある一方、大規模なバイオマス発電用の木材需要増加による森林減少の危険性がある。
続いて、日本製紙連合会常務理事の上河潔氏より、「紙パルプ産業の木質バイオマス事情」のテーマでお話がありました。
上河氏は、資料を元に、製紙業界はFITによるバイオマス発電を積極的に推進する一方、国内で製紙原料の木材チップとの競合状態にあること、日本の製紙メーカーは海外に広大な植林地を所有・管理しており、製紙用チップ需要が減退する中でその活用が問われていることなど、具体的な説明をされました。
上河氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・日本の製紙原料の6割は古紙であり、残りの4割はパルプ材となる。その中で天然木由来のパルプとは、国内の里山における広葉樹となり、3%を占める。輸入パルプは6%。
・製材会社は海外に自社の植林地を作り造成しており、現在では47万haほど海外で植林地を所有している。国内の植林地は15万ha。これまでは植林地の規模は増加傾向にあったが、近年では国内の紙の需要の減少から国内における植林地は減少傾向にある。製紙会社の植林地は基本的に製紙用としているが、今後、製紙用の需要が減少した際はバイオマス利用に移行する可能性もある。
・FIT開始当初では未利用材2000万m3を使用し賄うことを想定していたが、実際には一般木材が多くを占める現状がある。大型の木質バイオマス発電が次々と参入し、ほとんどが輸入の木材チップとPKSに頼っている。
・木材のカスケード利用を国内で確立することが重要である。ガイドラインを守り、現状の用途に影響を与えないようにすること、国としてもガイドラインを確立し、路網の整備、高性能林業機械の普及を含めて国内における供給能力を増やしていかないと対応ができない。
・しかしながら、現在の認定状況では輸入で対応していかざるを得ず、どのように対応していくかが今後の大きな課題となる。
最後に、株式会社森のエネルギー研究所 取締役営業部長の菅野明芳氏より、「バイオマス発電所の最新動向との燃料需給の見通し」のテーマでお話がありました。
菅野氏は、(1)国内の木質バイオマス発電の現況、(2)国内における木質バイオマス原料供給側の現状と課題、(3)大規模発電以外の方向性、(4)木質バイオマス熱電併給・熱利用の動向などについて、資料を元に詳しく説明されました。
菅野氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・木質バイオマス発電が安定的で持続可能な運転を行うためには、地域の実情に即した燃料となる材の供給体制を確立し、適切な規模で取り組むことが重要である。
・国内の未利用間伐材の量は2,000万m3と公表されているが、この数値は平成20年の推計値であり、直近の未利用間伐材等の発生量・利用率の合計値は把握されておらず、また26年度以降は発電用等のエネルギー利用で間伐材使用量が大幅に増えているため、現在の未利用間伐材の量は公表値の半減以下になっている恐れがある。
・今後の国産のバイオマス燃料材の供給は、平成28年度以降急速に増えると予想される。
・素材生産量が全国下位にある一方で未利用木材のFIT認定量が全国上位となる地域が多数存在することから、それらの地域における材の供給不足が懸念される。
・安定的な燃料調達確保、認定審査の運用強化、燃料使用計画・実績に係る認定申請、関係省庁や都道府県との情報共有システムの構築、取り組み事例の都道府県への積極的な情報提供・共有などを行い、需給メカニズムの強化を図っていくことが必要。
・小規模な木質バイオマス利用は、熱電併給や熱供給事業を行うと経済性に見合う。
・今、地域において求められているのは発電への新規参入より林業(木材の搬出~運搬)への新規参入。
・すでにFIT認定された発電計画のある県では、新規の発電計画は認められる余地が無い。未利用材の供給余力は無くなりつつあるため、バイオマス発電の新規事業化可能な規模は2,000kW未満が限界。
・今後のバイオマス発電の事業モデルは、輸入チップ・PKS等を燃料とした大規模(数万kW)発電、もしくは未利用材を燃料とした小規模熱電併給。
・政策の方向性は、2,000kW未満の熱電併給推進・経済性を確保する熱利用となる。
質疑や意見交換が活発に行われ、アンケートへも多数の回答をいただきました。
三氏の講演の概要や資料などについてお知りになりたい方は、事務局へメールでお尋ねください。会員様には詳細レポートをお送りします。
異なったお立場の三氏から多様なご意見を伺うことができ、とても有益で貴重な機会となりました。バイオマス燃料セミナーの1回目として有意義だったと思われます。次回のセミナーもどうぞご期待ください。
講師並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
最初に、筑波大学生命環境系(森林資源経済学)の立花敏氏より、「木質バイオマス輸入の現状と見通し―アジア太平洋地域の木材貿易と木材利用」のテーマでお話がありました。
立花氏は、(1)世界の林産物需給、森林資源とその方向性、(2)日本の林産物需給と方向性などについて概括的な説明を、資料を元に丁寧にされました。
立花氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・世界の丸太生産量は今日までの傾向として緩やかに増加していることから、世界の林産物生産量が減ることはない。
・FITの影響もあり木材需要が増え、現在の需給状況のまま進むと国際的な森林減少といった大きな問題が起きた時に誰も対応できない恐れがあり、日本国内のバイオマス燃料供給面においてトレーサビリティの必要性が高まっている。
・イギリスでは、すでに製材業の半分以上が森林認証を取得しており、オランダでは産業用材について半分以上が認証材にするという目標を掲げ、達成過程にきており針葉樹材は7〜8割が認証を得ている。
・森林資源は再生可能な資源であり、持続可能な社会形成、循環型社会形成には必要不可欠であり、どのような材を、カスケード利用を含めどのように活用するかが重要な課題である。
・世界的な視点でみれば、林産物需要量が世界的に増加している一方で森林面積が減少していることより、需要に見合った持続可能な森林経営を行っていく必要がある。
・国内的な視点でみれば、伐期を迎えた森林をいかに有効活用するかを検討する必要がある一方、大規模なバイオマス発電用の木材需要増加による森林減少の危険性がある。
続いて、日本製紙連合会常務理事の上河潔氏より、「紙パルプ産業の木質バイオマス事情」のテーマでお話がありました。
上河氏は、資料を元に、製紙業界はFITによるバイオマス発電を積極的に推進する一方、国内で製紙原料の木材チップとの競合状態にあること、日本の製紙メーカーは海外に広大な植林地を所有・管理しており、製紙用チップ需要が減退する中でその活用が問われていることなど、具体的な説明をされました。
上河氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・日本の製紙原料の6割は古紙であり、残りの4割はパルプ材となる。その中で天然木由来のパルプとは、国内の里山における広葉樹となり、3%を占める。輸入パルプは6%。
・製材会社は海外に自社の植林地を作り造成しており、現在では47万haほど海外で植林地を所有している。国内の植林地は15万ha。これまでは植林地の規模は増加傾向にあったが、近年では国内の紙の需要の減少から国内における植林地は減少傾向にある。製紙会社の植林地は基本的に製紙用としているが、今後、製紙用の需要が減少した際はバイオマス利用に移行する可能性もある。
・FIT開始当初では未利用材2000万m3を使用し賄うことを想定していたが、実際には一般木材が多くを占める現状がある。大型の木質バイオマス発電が次々と参入し、ほとんどが輸入の木材チップとPKSに頼っている。
・木材のカスケード利用を国内で確立することが重要である。ガイドラインを守り、現状の用途に影響を与えないようにすること、国としてもガイドラインを確立し、路網の整備、高性能林業機械の普及を含めて国内における供給能力を増やしていかないと対応ができない。
・しかしながら、現在の認定状況では輸入で対応していかざるを得ず、どのように対応していくかが今後の大きな課題となる。
最後に、株式会社森のエネルギー研究所 取締役営業部長の菅野明芳氏より、「バイオマス発電所の最新動向との燃料需給の見通し」のテーマでお話がありました。
菅野氏は、(1)国内の木質バイオマス発電の現況、(2)国内における木質バイオマス原料供給側の現状と課題、(3)大規模発電以外の方向性、(4)木質バイオマス熱電併給・熱利用の動向などについて、資料を元に詳しく説明されました。
菅野氏の講演の概要を一部ご紹介します。
・木質バイオマス発電が安定的で持続可能な運転を行うためには、地域の実情に即した燃料となる材の供給体制を確立し、適切な規模で取り組むことが重要である。
・国内の未利用間伐材の量は2,000万m3と公表されているが、この数値は平成20年の推計値であり、直近の未利用間伐材等の発生量・利用率の合計値は把握されておらず、また26年度以降は発電用等のエネルギー利用で間伐材使用量が大幅に増えているため、現在の未利用間伐材の量は公表値の半減以下になっている恐れがある。
・今後の国産のバイオマス燃料材の供給は、平成28年度以降急速に増えると予想される。
・素材生産量が全国下位にある一方で未利用木材のFIT認定量が全国上位となる地域が多数存在することから、それらの地域における材の供給不足が懸念される。
・安定的な燃料調達確保、認定審査の運用強化、燃料使用計画・実績に係る認定申請、関係省庁や都道府県との情報共有システムの構築、取り組み事例の都道府県への積極的な情報提供・共有などを行い、需給メカニズムの強化を図っていくことが必要。
・小規模な木質バイオマス利用は、熱電併給や熱供給事業を行うと経済性に見合う。
・今、地域において求められているのは発電への新規参入より林業(木材の搬出~運搬)への新規参入。
・すでにFIT認定された発電計画のある県では、新規の発電計画は認められる余地が無い。未利用材の供給余力は無くなりつつあるため、バイオマス発電の新規事業化可能な規模は2,000kW未満が限界。
・今後のバイオマス発電の事業モデルは、輸入チップ・PKS等を燃料とした大規模(数万kW)発電、もしくは未利用材を燃料とした小規模熱電併給。
・政策の方向性は、2,000kW未満の熱電併給推進・経済性を確保する熱利用となる。
質疑や意見交換が活発に行われ、アンケートへも多数の回答をいただきました。
三氏の講演の概要や資料などについてお知りになりたい方は、事務局へメールでお尋ねください。会員様には詳細レポートをお送りします。
異なったお立場の三氏から多様なご意見を伺うことができ、とても有益で貴重な機会となりました。バイオマス燃料セミナーの1回目として有意義だったと思われます。次回のセミナーもどうぞご期待ください。
講師並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
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