VISION 〜若きアスリートたちの視界〜 第一話 岡崎遥海‐サイドB [2015年11月19日(Thu)]
VISION 〜若きアスリートたちの視界〜
第一話 岡崎 遥海‐サイドB(カヌー スラローム競技 女子カヤックシングル) B&G財団 広報課 持田雅誠 このシリーズは、元オリンピアンである筆者が、これからオリンピックを目指す各種競技の若手アスリートを訪ね、彼(彼女)たちがその視界に見据える「希望」と「現実」を聞きだしていくものです。 第1話‐サイドAはこちら 10月25日に開催された2015年度のカヌースラローム「日本選手権」、および「日本ジュニア選手権」(以下 ジュニア選手権)に、女子カヤックシングル種目で出場した岡崎遥海選手(高校2年)。 1年前のジュニア選手権では4.5秒の大差でライバルの後塵を拝し、惜しくも2位となったが、今シーズンはジュニア日本代表としての国際大会出場、ワールドカップ大会シリーズ戦(第2戦、ポーランド)への初出場*など、着実に実績を重ねてきた。 今回、本人へのインタビューを、午前・午後と2本行われるレースの合間に行ったが、口調こそ穏やかながら、優勝者にのみ与えられる「ジュニア女子 日本代表選手」の1枠を狙い、今回のジュニア選手権に期する並々ならぬ決意が感じられた。 *本来はシニアの正代表のみ出場可。今回は代表欠場により出場したもの。 |
「平成27年度 日本カヌースラロームジュニア選手権」 および「2015年 カヌースラロームジャパンカップ 最終戦*」結果 *「ジュニア選手権」は「ジャパンカップ」と同時開催されるが、出場対象は18歳以下。 成績は「ジュニア選手権」のみと、「ジャパンカップ」の総合成績の2通りにランク付けされる。 岡崎は2014年、同年代のライバル選手に対し、全ての国内公式戦で惜敗したものの、今年4月の「ジャパンカップ第1戦」で初めてその上位を獲得した。しかしその後は再び、2戦続けての下位に甘んじてきた。 目標である矢澤亜季(リオ五輪出場枠獲得選手)と岡崎の間には、五輪出場経験者を含むシニア選手が数名立ちはだかり、追い上げてくる若い世代からは追い越し対象とされる立場でもある。 追いつきたければ、抜かれたくなければ、歩みを止めることはできない。 そんな立場で臨んだ今回のジュニア選手権。決して余裕を持てるメンタル状況ではなかったと思われるが、岡崎は見事に優勝。「ジャパンカップ最終戦」でも3位を獲得した。 川の下流側から上流側に向けて通過する「アップストリームゲート」を クリアする岡崎選手(写真右<上流>から左<下流>へ川が流れている) レース後 優勝インタビュー 優勝の賞状を手にする岡崎選手 持田:ジュニア選手権 初優勝おめでとうございます。今回の成績はどう考えますか? 岡崎選手:大会会場の川は流速が遅く、流れや波にうまく動きを合わせて加速できるポイントが多くありません。こういった川は苦手な部類に入るのですが、わかやま国体(10月上旬開催)以降、この川の特性に合わせたトレーニングを行いました。その成果が出たと思います。 もちろん「ジュニア選手権」での優勝が目標だったと思いますが、「ジャパンカップ最終戦」については、どんな課題をもって臨みましたか? 1位選手とのタイム差を、10秒以内に詰めることを目標に設定していました。順位こそ3位で表彰台に登れましたが、トップとは9秒強のタイム差でしたので、ぎりぎりクリアできたと思います。 この後は冬のオフシーズンになりますが、2016年のシーズンに向けての抱負を聞かせてください。 ようやくジュニア1位を獲得できましたが、“追われる立場”にならず、あくまで上位選手に追いつき、追い越したいですね。 来年4月にシニアの「日本選手権大会」(「NHK杯」「日本代表選手最終選考会」を兼ねる)が富山県で開催されますが、そこでは上位3人まで*が入れる「日本正代表」入りを狙っていきます。 冬季に、課題にしているフィジカルトレーニングを十分積んだ上で、大会前には早めに会場入りして、万全の態勢で臨みたいと思います。 *2016年度はすでにリオ五輪内定者が代表入りしたため、残りは2枠となる。 カヌースラローム競技 その実力評価の基準 初めに明確にしておかなければならないが、このカヌースラローム競技に関して、発展途上の選手を語る上では、国内レースの順位を指標としにくい。 競技の特性上、大会が開催される川(コース)ごと、毎回のレースごとにゲートと呼ばれる旗門が設置され、全く同じコースというものを再現することも難しく、「標準タイム」が存在しない。 さらに、国際大会を主戦場とする代表選手が国内の大会に出場することは少なく、「トップ選手不在のレース」での順位は、あまり意味を持たないからだ。 では何をもって若手選手の実力と成長を測るべきか。 それは、@「トップ選手が出場する大会」における、A「1位(または最速選手)とのタイム差」になる。 レースでは、最大25ヵ所設置されるゲートについて、1ヵ所の接触に対し2秒の加算(ペナルティー)が加算される。このため、「最速選手=優勝」にならないことが往々にして生じる。 岩ギリギリの「最速ライン」を攻める男子トップランカー 上記を踏まえると、国内で指標とすべきレースは1から2回。 その年の日本代表を選ぶ「日本選手権、兼 代表選手最終選考会」(4月開催)、およびシーズン最後となる「ジャパンカップ最終戦」だ。 ※最終戦に出場しないトップ選手もいる。 今回の最終戦には、リオ五輪出場枠を獲得し、早々に2016年度の日本代表となった矢澤亜季選手が出場したため、実力を測る指標とすることができた。 持田の視点 今大会、岡崎のレース結果は、タイム差にして優勝者から9.2秒遅れた。 パーセンテージで比較した場合9%落ちであり、これは今年4月の代表選考会(富山)、昨年10月のジャパンカップ最終戦(岐阜)における優勝者タイムと岡崎のフィニッシュタイムの比率(それぞれ10%落ち)と変わらず、タイム上、有意な向上は見られない。 むしろ昨年、4月から10月にかけての方が劇的な向上を達成している。 ※2014年4月のジャパンカップ第1戦(富山)では、約18秒差(19%落ち)であった。 今回のインタビューで筆者は、本人から、発言は控えめながらも、「ジュニア1位の奪取」という結果へのこだわりを強く感じた。 前述のように、ゲートへの接触に対し2秒が加算されるというカヌースラロームのルールでは、1ヵ所の接触が非常に怖い。しかしトップクラスの選手は最速のラインを求めて、接触ギリギリの、まさに紙一重のところまで攻めてくる。 結果としてペナルティーに泣く者も出る。 通過直前、カヌー本体・身体まで完全に「ゲート外」だが、 この男子トップ選手は当然のごとく、触れずに「ゲート内」を通過する 限界まで攻めなければ、0.1秒を削ることはできない 対して、成績をまとめようとする選手はペナルティーを恐れ、ゲートに当たらないための“安全距離”をとり、その影響はタイムに如実に表れる。 23ヵ所のゲートに対して、無意識にでも「安全策」をとれば、1ヵ所0.2秒としてもトータルでは5秒にまで膨らむ。それは選手にとって絶望的な差だ。 1秒は、概ねカヌー1艇身差(3.5m)と考えると、その大きさが理解できるだろう。 さらに、“スムーズに、気持ちの良いラインで乗れていた”という、フィーリングの落とし穴もある。 筆者も現役選手時代に何度となく経験したが、本人が感じるシームレスなスピード感は、得てしてタイム短縮に繋がらない。原因は、スピードが高く維持できる代わりに、漕行する距離が長くなることにあるのだが、身体への負荷が軽く、スピードに乗っている感覚があるため、たった100秒足らずのレース途中に気づき、修正するのは難しい。 岡崎のレースは今回、“気分よく”進めすぎであったように見えた。 ジュニア1位という「結果」とNo.1選手への「挑戦」、高校最後年となる2016年に、岡崎の天秤はどちらへ傾くのか。 2020への期待 トップ選手から、競争相手として認識されているとはまだ言い難いが、岡崎はまだ高校2年生。 周囲から結果が求められる年齢・ポジションでないことも、誰より本人が分かっているはずだ。 伸びる選手というものは、結果の出来不出来の差が激しいかもしれないが、そのアグレッシブな挑戦が上位の選手の目にも脅威に映る。 レース全体を上手くまとめる力は今回十分に見せてもらった。 これからの5年間、気迫を込めて挑戦し続けたとき、22歳になった岡崎の時代が来るだろう。 それをぜひ、見せてほしいものだ。 岡崎遥海選手 ★B&G財団 公式Facebookはこちら
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