4月28日に東海大学海洋学部で開催された
山舩晃太郎さん(株式会社アパラティス代表)による
セミナー「水中デジタル写真がつくる3次元海底遺跡の世界」について,小野林太郎さん(東海大学海洋学部)から当日のようすをお知らせいただきましたので,紹介させていただきます.
「山舩さんのこれまでの海外調査の詳細とそれらの研究で完成した3Dマップや映像を1時間半に渡りご紹介頂き、とても刺激的でした.
我々も石垣で3日間かけてやっと数枚の実測図を作成したりしていたわけですが,今や3Dフォトグラメトリーを使えば,錨なら30分程度でより詳細な実測図が作成できる時代となったことを改めて実感.沈没船一隻をすべてカバーした海底分布図も2週間あれば,かなり詳細なものが作成可能だそうです.しかも三次元で復元できるので,原位置保存でも考古学者が,その後も陸上で分析可能となり,本当に画期的な技術だと思いました.
技術的にも基本的には誰にでもできるところが魅力ですが,やはり試行錯誤の経験がものを言うようです.私もインドネシアで発掘記録の3D化を進めていますが,うまく記録するのは確かに経験がいるなと実感しています.その点において,山舩さんの技術と経験は今後も重要になってくると思いました.日本においても可能な限り,海底遺跡の3Dマップ化を進めるべきだと思います.」
小野さんからいただいた当日のようすとご感想です.
水中文化遺産調査への写真測量の実践が紹介され,国内の水中調査にたいしてかなり刺激的な内容だったようです.
水中の調査では,作業時間が限られますので,
各作業の時短は重要なテーマです.
もちろん,時短をするにしても調査の精度を落とすことはできません.
そのために,もっとも時間のかかる実測作業に,写真測量を応用することは有効です.
とくに,海底に残された遺構・遺物は簡単には見ることができませんので,
小野さんも指摘されているように,3D画像があれば,陸上で容易に詳細確認・分析ができます.
国内でも,これまでにさまざまな工夫がなされてきました.
近年では,実測への写真測量の応用に複数の研究機関(考古学と海洋工学のコラボ)が取り組んでおり,
日本考古学協会総会をはじめとする研究発表会の場で報告もなされています.
当研究所でもブログでも取り上げてきたように,ここ数年,東京海洋大学と協同で水中での写真測量の実験をおこなってきました.
ただし,毎回,課題が提出されるなど,まだ技術的には完成域には達しておらず,情報収集・試行錯誤の段階です.
とくに,水中がゆえの問題点も多くあります.
まだまだ,場数(経験)が必要なのです.
写真測量は,水中文化遺産調査にとって,今後も取り組まなくてはならない技術ですので,
その技術的問題点を整理・検討するうえで,より多くの情報が必要です.
現状では十分になされているとは言えませんが,情報共有をするためにも研究機関どうしの情報交換は活発にする必要があると思っています.
その点からも経験を踏んで,技術を習得した山舩さんの報告は,国内の水中文化遺産調査・研究に多いに刺激を与えるものであったと思います.
水中という陸上とは異なった環境に存在する水中文化遺産,
そしてその環境ゆえに,調査では困難がつきまといますが,
その研究方法は相互に何ら変わることはありませんので,
作業でもいつか陸上と同じことを水中でもやってみたいものです.