初島沖海底遺跡調査のようす [2015年12月04日(Fri)]
11月27日(金)から12月1日にかけて実施した初島沖海底遺跡の調査は,予定通りに終了できました.
調査は,お知らせしたように朝日新聞文化財団・助成事業としておこなう3カ年調査の初年度にあたり, 今年度は,調査作業の省力化・効率化を目指し,水中工学機器(水中ロボット)を使用した遺構(遺物集積地区)検出状況図作成を主目的に実施しました. 遺跡の詳細については,これまでに説明してきましたので,そちらをご参照ください. https://blog.canpan.info/ariua/archive/566 遺物集積地区全景・手前側に平瓦が整然と並んでいる 調査チームは,ARIUA会員と東京海洋大学関係者(教員・学生)からなり,調査全体を通じて初島漁業協同組合,初島ダイビングセンターおよび島の方々に協力をいただきました. 調査は,初日のみ強風・高波のため現地での作業はできませんでしたが, 他日は天候・海況ともに恵まれ,海中も連日,視界は20mと撮影には最適の状況で,大きな作業変更はなく,進めることができました. 水中ロボットについては,東京海洋大学・近藤逸人研究室に協力をいただきました. 使用した水中ロボットは,近藤研究室が今回のプロジェクのために開発したROVで,他の水中文化遺産調査で使用しているもの(主目的は映像撮影)よりやや大型のもの(約100×60×50cm,重量約50kg)です. また,光源(LED)のみ内蔵バッテリーから電力供給し,スクリュー等の主要装置の駆動には外部から電力を供給するタイプで,それに測量用のカメラを搭載しています. 海中で稼働中の水中ロボット 水中ロボットは,2回投入しました. スクリューに不具合があり,水中ではダイバーのアシストが必要でしたが,映像の撮影には成功しました. 今後データー処理の後,図化をおこないます. 水中文化遺産調査で,水中文化遺産調査用に開発された水中光学機器による遺構検出状況図の作成は,恐らく国内では初の事例と思われますので, 図化に成功すれば,水中文化遺産調査にとり大きな成果になります. ダイバーは,ロボット稼働中はロボットのアシストに集中しましたが,それ以外では遺構(遺物集積地区)の詳細観察をおこないました. これまでの調査は,時間的な制約から潜水回数も限られて詳細な観察はできませんでした. 今回は,瓦類の種類・並び方・遺存状態・他の遺物の確認を主におこないました. その結果,遺物集中地区の遺物は,鬼瓦(三葉葵紋)・軒丸瓦(三巴文)・平瓦の3種の瓦および擂鉢,砥石を確認しました. 他の遺物は,確認できませんでした. このうち,もっとも数の多い平瓦は1〜3段に積まれた6列が,やや崩れは見られるものの全体としてはきれいに並んだ状態, それに次ぐ軒丸瓦も2段1列,やはりきれいに並んだ状態が確認できました. 遺物集積地区・軒丸瓦の集積 これらは,ほぼ水没時の状態を保っているものと考えられます. 鬼瓦と砥石は,集積は見られず,遺物集積地区から散在したと考えられる状態でそれぞれ複数, 擂鉢は,乱れはあるものの十数個が重ねられた状態でまとめられた状態が複数個所で確認できました. 遺物集積地区・擂鉢の集積 これらの詳細も検出状況が図化されれば,より詳細に観察・検討ができます. なお遺物集積地区では,丸瓦および軒平瓦は確認できませんでした. この2種の瓦については,これまでの調査では遺物集積地区から離れた状態で,すべて単独で確認されていました. それらは遺物集積地区から散在したものであろうと考え,これまでの報告では遺物集積地区の瓦種に加えていましたが,今回の調査で無いことが明らかになりました. このような状況ですので,この2種の瓦の由来が問題になります. 瓦の様相から遺物集積地区で確認されている他の瓦と同時期・同種のものと考えて差し支えのないものですので, 遺物集積地区と同じ時期に水没した可能性が高いものです. ですので,他所にこの2種の瓦をふくむ集中地区がある可能性を考える必要がありそうです. この点について,付近で調査地区とは異なる瓦の集積を見た,との情報をダイバーや島の方から得ています. その可能性を探るために,最終日に情報をもとにサーチしましたが,確認することはできませんでした. 今回の調査ではデーター処理はまだ終了していませんが,現地調査では,多くの成果を得ることができました. それとともに,新たな課題も生じました. これら課題解決については,今回の成果を精査したうえで整理・検討し, 次回(来年度)調査の内容・方法に反映したいと考えています. |