「沈没船」の引揚げ事例 [2013年03月31日(Sun)]
昨日話題にした「沈没船」の引揚げ事例をご紹介します.
ご紹介するのは,韓国・新安沖沈没船(新安船)です. このブログでも何回か取り上げでいますし, 韓国水中文化遺産調査の本格的開始の契機となった沈没船調査事例としても著名なので, ご存知の方も多いことと思います. 新安船は,14世紀初めに中国から日本への航海途中,韓国南西部新安沖で沈没した貿易船です. 船体とともに,積載していた中国・日本・朝鮮の多様な物品(陶磁器・工芸品・香辛料・薬剤・紫檀など)が海底でみつかり,引揚げられました. 新安船の基本データー 全長34m・幅11m,木造帆船(中国ジャンク) 調査・保存処理・関係機関データー 発 見 1975年 調 査 1976〜1984年(9年・10次) 調査主体:韓国文化財管理局 保存処理 1984〜1994年(11年) 船体復元 1994〜2002年(9年) 保存・研究機関変遷 1990年 木浦海洋遺物保存処理所(国立)開設 1994年 木浦海洋遺物保存処理所(国立)を国立海洋遺物展示館に改編 2009年 国立海洋遺物展示館を国立海洋文化財研究所に改編 以上のように,発見・引揚げから船体復元・公開まで約30年の年月を費やしています. そして,その作業・研究は国立の機関によって,おこなわれてきました. 展示されている「新安船」 photo by S.H. ただし,保存処理については,終了したわけではなく, 今もなお,経過を見ながらその作業・研究は継続中です. より長いスパンで見守る必要があるのです. そこから得られたデーターは,次の調査・処理に生かし, より良い調査・処理方法を確立するために,日々研究がなされているのです. 水中から引揚げられた船体や遺物は, このような継続的なプロジェクトのもとで処理・研究がなされ, 現在,多くのひとが携わってきたのです. 水中のもののみならず保存処理は, 世代間にわたる成果が,まだ示されていない分野ですので, その点では,終わりのないプロジェクトでもあるのです. 水中遺物の引揚げ自体は,一過性のもので,その時に費用さえあれば,可能ですが, その後の処理・研究を考えると,長く続く大変な作業と莫大な費用がともなうものなのです. このようにみてくると,簡単に「引揚げができない」わけがわかる,と思います. なお,新安船の船体および遺物については, 現在,木浦市(목포시)の国立海洋文化財研究所・海洋遺物展示館でみることができます. そのほかの引揚げ沈没船体も遺物とともに展示されています. http://www.seamuse.go.kr 国立海洋文化財研究所・海洋遺物展示館(木浦) photo by S.H. |