日本サンゴ礁学会
[2011年11月11日(Fri)]
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初夏の研究所の1日
「今日もまた暑そうだ。湿っぽいから午後は雨かな」こんな言葉で研究所の朝が始まる。食堂のテラスに出ると外はもう7月の太陽が輝いていて、リュウキュウクマセミの鳴き声がやたらにやかましい。午前8時の朝食に皆が集まっている。本土のような朝起きのすがすがしい気分はないが、食堂の冷房がありがたい。
9時に毎日のミーティング。日曜日以外は毎日仕事で、その日のそれぞれの行動予定や前日あったことが話される。予定の仕事が全部終ったというのはそうない。毎日つぎつぎに現場ですることが出てきて、二人の研究員(岩尾、谷口)もコックの上林さんも忙しい。できることなら補助員がもう一人でも欲しいと思う。 サンゴの産卵と幼生の飼育がある5月6月は研究所が一番にぎやかな時である。産卵が始まるまでは毎晩海に潜ってサンゴを調べ、産卵のあとは昼も夜も受精、飼育、着生、養殖と例年の作業が続く。そのほかに、実験や訪問研究者の補助がある。谷口さんは隣の阿嘉小中学校のサンゴ観察学習でも先生方や子供たちに慕われ、頼りにされている。6月2日夜には阿嘉港横のマジャビーチでミドリイシ類の一斉産卵があった。5年前に卵から育てて移植したサンゴは直径30cmにも成長して今年も卵を産んだ。ピンク色の粒がサンゴから放出される様子をダイバーたちが水中ライトで照らし、子どもたちの歓声が夜の海に響いた。岩尾さんはもう20日も連日休むことなく海に潜っている。この季節ふたりとも50日以上も潜水観察を続けた。これぐらい、フィールドに出てサンゴを監察している研究員は世界でもまれだろう。疲れて事故を起さないようにわたしはいつもそれを祈っている。 夕方、研究所の裏の草刈を始める。背丈より高く伸びたススキを刈り、アダンの大木を何本も切り倒した。いまはその後に野草が生え、花が咲いて、ケラマジカの餌場になっている。窓から見ていても鹿は逃げない。そのうえを森の貴婦人といわれる大きな蝶・オオゴマダラがゆっくり舞う。昆虫好きの上林さんが幼虫から育てたナガサキアゲハもようやく羽化した。初夏の阿嘉島、コバルトブルーの海ではサンゴが、濃緑の森では蝶が育っている。夕食後、谷口さんは水中ビデオの編集にとりかかり、岩尾さんはまたウエットスーツに着替えた。ほどなく、すっかり暮れた闇のなかにサンゴの観察に出かける彼のバイクの音が響いた。 |