本日の講演会にご参加いただいた皆さん、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
ご講演いただいた内田先生、リレートークをいただいた、たにぐちさん、岩尾先生、長谷川先生に対しまして、心よりお礼申し上げます。
さて、本日は、「人間の尊厳」から「強制入院」を考えるというテーマを取り上げました。私たちがこのテーマを取り上げたのは、強制入院は人間の尊厳と相いれないのではないかと考えたからです。
本日の内田先生の話に、緊急避難の法理という法律用語が出てきました。これは、本人や他人の生命・財産に対するに対する現在の危険があって、それを守るために本人を強制入院させるという方法以外になく、強制入院によって守られる公益と奪われる本人の自由や権利とがバランスが取れていなければならないという考え方です。
この法理は、身体的自由を奪うという人間の尊厳を損なう行為に対して、憲法上も要請される基本的な考え方だというお話でした。
しかし、現在の精神科病院では、そのような考え方で強制入院が行われている訳ではありません。治療の必要性があるのに本人が治療を拒否しているというだけで、家族の同意をもって本人を強制入院させるというのが医療保護入院の現状ではないでしょうか。
現在の日本の精神科医療における強制入院制度は、人間の尊厳を保障する観点からみて許容されないというのが本日の講演会で確認されたと思います。
人権センターはこれまで日本の精神科医療が収容主義になっていること、とくに強制入院が濫用されて精神科医療を受ける人たちが自由を奪われすぎていることを批判してきました。
強制入院を少しでも減らすために、要件の緩やかな医療保護入院を廃止することや、措置入院の要件をもっと厳しくしていくことを訴えてきました。
また、精神科病院によって自由を奪われた入院者が自由や権利を取り戻すために、手続的な要件を厳しくし、入院者が第三者の権利擁護者を選ぶことができるようにすることを訴えています。今日の講演会では、その理論的な根拠を得ることができたのではないかと思います。
今日のテーマで、もう一つ重要なことがあります。
人間の尊厳と強制入院の後にある「考える」ということです。
15年ほど前に厚生労働省が、社会的入院が7万人いるので、これを減らして地域医療に戻すという方向性を打ち出したことがありました。
しかし、その後十数年たっていますが、当時と現在とで入院者数はほとんど変わっていません。病院協会が抵抗したのかもしれませんが、それだけではないと思うのです。
入院者を減らすためにどうしていくのか、どういう方法があるのか、何が障害になっているのか、そういうことを十分に考えてこなかったからではないでしょうか。
現状を変えることはとても大変なことです。しかし、それを変えるためには、考えることを続けること以外にないと思います。
本日の講演会に参加された方の中には、精神科病院に勤務されている方もおられると思います。
入院患者さんを強制入院させたり拘束帯でしばる前に、もういちど考えて下さい。「人間の尊厳を奪うことになりはしないか」と。
もしも、今日の講演会に参加された方々が職場や学園、自宅で本日のテーマを考え続けてもらうことができたら、本日の講演会は成功したといえると思います。
最後になりましたが、内田先生には、貴重かつ有益なお話をいただきまして、誠にありがとうございました。
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11月18日 大阪精神医療人権センター設立32周年記念講演会「人間の尊厳」から「強制入院」を考える 閉会のごあいさつ 代表理事 位田浩 より