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インド最前線 07〜08 第104回 東京財団ユーラシア情報ネットワーク [2007年05月11日(金)]

  《 特集 Supplement Issue 》その1    2 0 0 7年5月 1 1日                     インド経済拡大と為替レート

高騰するインド・ルピー
 日本ではゴールデンウィークに入った4月末、銀行へいって驚いた。
 インド・ルピーが一週間前に比べて、対ドル5ポイントも上がっていたのだ。
 わたしたち外国人居住者は通常、外貨を銀行に入れて、相場換算されルピーで通帳記入される。すなわち収入になる。1ドルで5ルピーも少なくなってしまった。大損害だ。
 ドルが下がっているというのは、盛んに報道されていて、わかってはいたのだが、ここまで下がっているとは実感していなかった。
 3月末から5月はじめまでの約1ヶ月で、1ドル4 4ルピーが3 9〜4 0.5ルピーまで昂進している。5月第2週の現在は高止まり、といった状態だ。
 民間の両替所、ホテルのカウンターなどでは3 7ルピーなどという換算もまかり通っている。強気なのである。
 円は、この1ヶ月、1 1 9〜1 2 0円代をもみ合っている感じなのだが、なにより銀行では円を買うのを渋るのである。こんなことはかつて味わったことがない。日本も甘く見られたものだ。
 対ルピー、2.7 0〜2.8 0円だったが、いまやカンペキに3円ペースになっている。
格差を利してインド旅行を楽しむ時代は、すでに去ったのであろうか。

「ルピー、対ドルに強く強力化」
 5月8日の英字紙ザ・ヒンドゥの経済版には、表記のようなリードの特集記事がでた。
3月5日から5月4日までの推移を図示して、経済現況を記述している。基調には、経済発展する「インドの時代」への確信と誇りが流れている。
 とはいいながら、記事の後半では貿易収支の赤字拡大を冷静に記して、ただの楽観記事にはなってはいない。
 インフレは5 %前後、G D Pは9 %目標値に対して8.5 %はいくだろうと予測している。工業、金融に不確定要素はあるが、冬収穫の農業生産が3 ~ 4%の伸びが見込まれ、底支えになるだろう、と正鵠をうがっている。
 しかし原油高はとどまらず、しかも石油を除いた輸入超過は0 5 ~ 0 6年に比して0 6 ~ 0 7年は約1 7 0億ドルに達するとしている。
 こうした情勢の下、国立準備銀行は金利上昇を抑制し、金融活性化を政策化するだろうと結んでいる。
 同紙の経済版のおなじページにはもうひとつの特集記事が掲載されている。
 「高インフレは必需物産の供給を圧迫する」と題されている。どちらもそれぞれ署名記事なのだが、あきらかに一対をなしている。
 米ドルをはじめ他の世界通貨に対してルピーが強くなるとともにインフレが高進している、というのである。政府、準備銀行の努力にもかかわらず、インフレは一向に収まらない。インフレが6 %ペースになると需給のバランスは崩れ、消費は圧迫されるし、準備銀行は利息の改定をあきらめざるを得ない、ということだ。
 農業などの第一次産業は抑圧され、一部工業とI Tなどのサーヴィス産業との格差は、ますます拡大される、と述べている。
 輸入超過状態にある中国とは、ますます不利になるだろうとも観測している。

経済成長とインフレ
 インドの銀行利息は現在、たとえば通常の住宅ローンで1 2 ~ 1 4%、預け入れ利息も1 0%前後で、これ以上の利上げは一般生活ではとても従いていけない。海外投資家の意欲をそそる高配当もこれに起因している。準備銀行は、できれば利息下げをしたいところなのである。インフレ基調を睨むと、それができない。
 経済成長に伴うインフレは、日本は1 9 6 0 ~ 7 0年代に充分経験してきたが、インドでは初体験なのである。0 5年当時からマンモーハン・シン首相は、インフレを5 %程度に抑えつつ成長基調を維持するといってきた。それがどうやら怪しくなってきている。
 対ドル、ルピー高騰の最大要因は、アメリカの景気に翳りがでてきていることにある。
中国の積極的な経済外交路線は、内政での格差拡大や地方行政の不満を覆い隠して、インドやアジア諸国への攻勢を緩めることはなく、それがアメリカ経済の翳りを、より際立たせている。
5月に入って、石油価格が最高値に至ったのも、こうしたアメリカと新興経済大国の情勢に無縁ではない。
 5月8日の各紙は7日、マンモーハン・シン首相がブッシュ大統領と電話会談をしたと一面で報じている。話題は、原子力平和利用に関する再検討だったと伝えられている。
 原発開発は、昨1 2月、アメリカ議会を通りブッシュが批准書に署名したにもかかわらず、今年になってウラン産出国などの強い抵抗によって、進捗していない。
 もとよりインドのエネルギー問題は深刻で、中国がなりふり構わずアフリカに活路を求めているのを横目に、あきらかに焦りがある。原油価格の高騰がインフレ、そして経済を圧迫しつつある。
 アメリカにとっても、景気減退の下、インドの原発開発は2 0以上の米企業が参画する目玉プロジェクトになっている。
 どの新聞も、この電話会談が、来るべきG 8を遠望し、印米のあらたな経済連携を模索している結果だと報じている。5月末には、次のステップの相貌が表れてくるだろうと付記している。

円は大丈夫なのか
 マンモーハン・シン首相とブッシュ大統領の電話会議の2日前の5日、京都でアセアン、プラス3・財務省会議が開かれた。東南アジア諸国連合に日中韓を加えた会議だ。
 ここで採択された共同声明に、参加国が外貨準備の一部を拠金し通貨危機に備えるというシステムの創設を表明している。I M F(国際通貨基金)のアジア版のような機構だ。2国間での危機回避、通貨交換協定は存在していたが、それをアジア全域の体制にしようというわけだ。
 現在のドル弱体化と1 9 9 7年の危機が、参加国財務省の頭にあることは明白だ。危機感は、かなり差し迫ったものなのである。
 9 7年の危機は、タイのバーツ売りがきっかけだった。もっとも打撃を受けたのは韓国で、I M Fからの支援基金を受けインド進出を積極化することで乗り越えた。
 現在、ルピーは対ドル8 ~ 1 0%程度の上昇だが、民間ホテルやノンバンクでのレート1ドル3 6ルピーまで上がると、優に1 5%を越え2 0%に迫る。このときヘッジファンドがルピー売り、ドル買いに走ったら、確実に通貨危機はやってくる。
 嫌なシナリオだが、もっとも被害を蒙るのは、円の日本ということになるのではないか。ドルは、弱くなっているとはいえ堅調で対ユーロへの振幅はかなりあったが、結局、落ち着きつつある。しかし、円は対ユーロ、対アジア通貨には予断を許さない情勢なのではないか。
 日本は円安を放置し、輸出での為替差益をむさぼっているときではないのではないか。

日印親米戦略の行方
 インドと日本は、ニュアンスは違うが、ともに親米路線をひた走っている。これは、意外に日本人が気づかずにいる事実なのである。
 インドの経済拡大に引きずられて、パキスタンは成長の速度を速めている。
 5月5日、国際協力銀行はパキスタンのナショナル銀行と提携すると発表した。アラビア湾岸諸国への融資窓口にするというのである。イスラム圏独特の金融システムをパキスタン・ナショナル銀行のシステムによって解消しようというのである。これは、インドにとって大きなストレスである。パキスタンがいまや世界の財布といわれる諸国に窓を開いたのである。
 おまけに、インドとおなじように原発開発を意図するパキスタンもウラン調達に行き詰っていたのだか、4月末、まったく問題はないのだと表明していた。
5月7日、複数の欧州外信はパキスタンが大規模な使用済み核燃料の再処理施設を建設していると報じた。これが、プルトニウム型兵器に使われるのか、原子炉に使用されるのかは、パキスタン次第ということになる。原子力の平和利用と軍事兵器化は諸刃の刃なのである。
 親米戦略をとる日本とインドにとって、アジア圏の経済動向は、本来、共通の課題なのである。

Posted by 森尻 純夫 at 01:01 | この記事のURL