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07〜08 インド最前線 The Actual India 第108回 東京財団ユーラシア情報ネットワーク [2007年05月26日(土)]



      《 ウィークリースポット Weekly Spot 》その6                          2 0 0 7年5月 2 6日

ジェトロ、アラビア海沿岸へ
 5月2 3日、日本貿易振興機構(J E T R O)のバンガロール事務所所長久保木一政氏が、アラビア海沿岸の中都市マンガロールへやってきた。マンガロール商工会議所の招きに応じたものだ。
 わたしが所在するマンガロールは、古くからの港町で、その港湾は、現在、新旧ふたつある。ひとつは魚市場に隣接して、漁業基地になっている。もうひとつは国内、海外に開かれた貿易港になっている。
 古くから国内交易の要路であったマンガロールは、多宗教、多種言語共同体がビジネスを競ういわば自由商業都市である。
 その多種共同体を支える文化と教育は、カルナータカ州でも抜群の環境を誇っている。イスラム、クリスチャン、そしてヒンドゥの文化が調和を保って発展してきた。
 古代末期からのジャイナ教の拠点地域のひとつでもあり、農業を背景とした彼らのビジネスは無視できない資本力で重石になっている。
 これらの情報は第1 0 6回「波紋を呼んだリチャード・ギアのキス事件」でも記したので、参照して欲しい。
 また、マンガロールの商工会議所とその活動については、0 3年3月、東京財団での筆者の研究発表会にマンガロール会議所理事を招き、その概要が報告されている。

おおらかな商業都市の危機感
 アラビア海沿岸ムンバイは、イギリス植民地以前からポルトガル人による開発に促されて貿易都市として経済発展してきた。
 また、カルナータカ州都バンガロールは、過去、1 5年、I T拠点都市として世界経済の先端に立っている。
 マンガロールは、これらの肥大するインド経済の象徴的地域にはさまれて、ややもすれば見落とされてきた。
 しかし、マンガロール経済人にとってはむしろそれが勿怪の幸いで、注目されないことを利点として経済活動に勤しんできた。注目されないことが、自由で闊達な商業活動を保証してくれることを長い歴史のなかで周知してきたのだ。
 もともと多種共同体が共存するこの都市は、けして閉鎖的な気風が覆っているわけではない。実にオープンでおおらかだ。
 そのおおらかさがメジャーな都市になろうというような成り上がり意識を持たせなかった。そのおおらかさの背後には経済的な豊かさがあって「喧嘩せず」なのである。
 といいながら、現代、経済拡大の一途をたどるインドにあって、オリッサ、アンドラ・プラデッシュ、そしてタミール各州のベンガル湾沿岸は工業化と港湾整備を急激に進めている。ガルフ湾岸、アラビア諸国への窓口、と自負しても対中国戦略となるとベンガル湾沿岸は強みを発揮している。近未来、脅かされることは目にみえている。
 マンガロール商工会議所がジェトロのプレゼンテーションを望んだのは、こうした背景によるのである。
 応じたジェトロ側にも、相応の関心と未来展望があったに違いない。

漁業と造船
 久保木氏の発言で注目されたのは、造船所建設と開発に日本が参画することは可能か、という問いかけだった。
 現在マンガロールには小規模な造船所があるが、かろうじて延命しているという状態で、活発ではない。沿岸地域には充分な条件が整っており、大きな可能性がある。
 また、氏は、漁業関連でも、インド海産物が、タイやその他の国を経由して日本に輸入されている現状を打破する方策を講ずるべきだと訴えた。
 会場からは、すでに日本と直接取引をしている、という声も上がった。たしかに、海老などの骨粉が相当量、肥・飼料用に輸出されている。だからといって充分な体制が確立されているとはいえず、日本市場の調査し、認識を深めていくことが望まれる。
 商工会議所の現会長は、少壮4 0代の船会社の社長で、マンガロールは工業、医・薬学を中心にした教育都市でもあり、こうした研究成果を踏まえて、日本との調査交流を盛んにしたいと結んだ。
 マンガロールの可能性は、海に向かって開けているばかりではなく、内陸部の豊かな農業地帯を見逃すわけにはいかない。沿岸の経済生活を支えてきたのは肥沃な内陸の農業だったのである。その生産性を港湾経済と結びつけることが必須の将来展望なのである。
 農業と漁業の可能性を模索せずに、アラビア海沿岸の工業化と発展は見出せないのである。

インドに「地方の時代」は招来するか
 久保木氏のプレゼンテーションの前に、商工会側は理事会室で、マンガロールの経済情勢と展望を説明した。特に特別経済区域(S E Z)の設定計画について詳しい説明があった。
 S E Zは、インドの主だった地域に政府の支援を受けて設定し、内外の投資を仰ごうというものだ。インド政府の発案で、各地に計画、実施が進んでいる。
 デリー近郊のグルガオンには広大な特区の建設が進んでいる。日本政府も日本特区建設に支援をしている。すでに、ホンダ、スズキなどの工場は稼動している。
 マンモーハン・シン首相は、就任時、中小都市の経済振興とインフラ整備を公約している。特区構想もその一環で、官民一体の組織化がおこなわれている。しかし、大都市圏では米中韓日、そしてE Uなどが積極的に投資に向かい、企業も参画してきているが、中小都市では大きく進展しているとはいえない実情だ。
 なによりも、インドの中小都市の多くは古代、中世に成立し、その後、近代に至って疲弊し未来展望を失ってしまったのである。そういう意味ではマンガロールは、例外的な磁場性を持っている。
 だが、疲弊した中小都市の存在こそ、インドの構造格差、歪みの元凶なのである。
硬直した農業生産システム、流通、そして道路、生活インフラの不整備など問題は山積している。さらにこうした歴史的中小都市は、近未来、経済拡大にともなうあらたな格差の温床になるであろう。
 マンガロールとて、周辺都市のあらたな格差の影響を受けざるを得ない。足を引っ張られるのである。
 それぞれの強い地方性を理解することが地域産業参画への第一歩の必要条件なのである。まずインド自身がそれを探索し、認識を深めなければならない。
そうしたインド経済文化の疲弊を外資企業と共有することが、経済の底辺を強固に拡大することになるのでなかろうか。
Posted by 森尻 純夫 at 21:27 | この記事のURL