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インフレと世界食糧危機 インド最前線 The Actual India 136回 [2008年05月11日(日)]

       《 ウィークリースポット Weekly Spot 》その3 1
 
インフレは石油価格に連動か?
 インドのインフレーションが止まらない。
 4月のはじめ、08年3月の一か月、物価上昇率7.41%と報道され、大きなショックに見舞われた。07年度のGDP予想が8.7%と発表され、マンモーハン・シン内閣の目標値9%に届かなかった。その上に、成長率を帳消しにしかねないインフレである。
 政府も経済界もあらためてその深刻さを認識した。当然、かなりの数字がでるだろうことは予想されていたが、これほどだったか、というのが実感だ。
 2月中旬、経済紙は6〜7%のインフレの可能性を指摘していた。3月にはそれを大幅に越える数値が現実になったのだ。
 その後、4月に入ってもいっこうに沈静化しない。20日時点でやや落ちつき7.3%、しかし月末には7.61%を記録した。いずれも前年同期比である。
 サブプライム問題があきらかになった昨年8月以降、石油価格の不安定化にともなって、特に、銑鉄、合金、プラスチック製品、紙などの値上がりは世界的規模で起こっている。
 インドのガソリン価格は、昨年9月以降、g150〜155円、ということは日本の道路特定財源税下とおなじ価格帯だ。20〜22%の値上げ状態が、そのまま続いている。
 5月第一週から連日、石油価格は上昇を続け、10日には126ドルを記録している。
 石油価格がインフレの元凶であることは、世界的にいえるのだが、インドでは生鮮食料品、特に米と野菜が著しい。インドの食卓に欠かせないトマト、たまねぎは120%前後、主食の米は7〜80%で推移している。
 3月31日、政府は特定銘柄米を除く米の輸出禁止を発令した。

食品インフレは中産化による需要拡大?
 インフレは、なにもインドだけではなく、中国をはじめ経済成長途上の国々は、過去2年、相当の数値をだしている。ちなみに中国は07年度(08年3月期末)で、8.4%と伝えられている。
 5月8日のザ・ヒンドゥ紙は、中国が3月期の世界的な騰貴に対応して、米、雑穀、豆類の価格を安定的に維持する政策を実施すると伝えている。20%に満たない上昇は、世界的傾向の影響にあるためだ、という国家開発改革委員会の見解も伝えている。
 インドは、成長期に入った90年代初頭から、ほぼ4%代を維持してきた。GNPが平均8〜9%代だったから、好況感に終始してきた。
 今年に入ってからのインドのインフレは、自由主義体制下での経済拡大、成長期に特有の避けて通れない産物だ、とはとてもいえない。
 5月4日、ブッシュ大統領は、世界的な米をはじめとする食品の騰貴は、経済成長するアジア新興国の、特にインドの中産階級化が進み、需要が拡大しているためだ、と発言した。
 なんとなく日本の経済成長のはじまりのころ「貧乏人は麦を食え」と喚いた総理大臣を思い出す。彼は、戦後日本の経済発展を鼓舞する鼓笛のつもりだったが、ブッシュの言説は、被害者意識をかざして自らを糊塗する女々しさだけが際立つ。
 多くのインド人は、この発言を一瞬、理解できなかった、なにをいっているのかわからなかった、とわたしに語っている。それから、苦笑、哄笑、嘲笑になったという。
 この一週間ほど以前、福田首相も米、麦、雑穀の生産国による輸出規制を撤廃するように働きかけようと、発言している。
 ブッシュ、福田発言には、情勢分析の共有、なんらかの連携を読み取らざるをえない。

食糧危機は、ディストリビューション(流通・分配)の不均衡
 国連は、3月の米騰貴を受けて、特にアフリカなどの食糧危機を、再度警告している。
 インドは食料自給率130%を誇っていて、輸出国でもある。その農業国が輸出規制をしたのは、自国の農業産品の騰貴を抑制するための処置だった。輸出価格に引き上げられて自国のインフレが昂進するのを防御したのである。ことさらに今年になって需要が拡大したなどという事実はない。また07年度は、空前の豊作で生産総量にはなんの不安もないのが現実だ。
 サブプライム、石油、そしてオーストラリアの旱魃による麦の不作、代替エネルギー開発の提案によるとうもろこしの高騰、などが複合して食品インフレが起こっているのだ。
 ちょっと冷静になって客観化してみると、アメリカ中心の経済体制が脆弱化した結果だということが、即、見えてくる。いま、グローバル・ディストリビューション、世界規模での流通、分配の機構を再考すべきときに至っているのである。
 同時に、日本はかつての農業大国、農業による立国の姿を21世紀の現代に呼び戻す国内政策を真剣に見出さなければならない。米のみは100%の需給をようやく保ってはいるが、これも近未来は覚束ないし、30%代の自給率を根底的に問い直さなければならない。
 農民が食えない国家が、栄えた歴史はないのである。7〜80年代の高成長期の日本では、農民は豊だったことを銘記すべきだ。

インド、農業経済成長の道
 一方でインドは、農業民への抑圧的体制は、その長い歴史を清算できないでいる。高度成長を実現しながら、農民の自殺は後を絶たないのが現状だ。
 政府は今年度予算で、農業支援策を計上しているが、構造的格差を解消する抜本策とは見えない。貧窮農民の借入金免除などの政策は、この場を逃れるには有効でも未来展望を開くには至らない。救われるのは、不良債権化を抱える金融機関だけだ。
 トマト、たまねぎが120%の値上げといっても1`55円前後だ。米は普通米で1`60〜80円だ。このあきらかな低価格の農産品が、インドの高度成長を支えているのである。
 農業世帯は1億5千万、総世帯のほぼ75%で農業人口比も、概ね準じている。零細農民は、1日2j以下の収入がいまだに多く、全農民の30%前後といわれている。
 バンガロールなどのIT企業では、大学院修士を終えたばかりの青年が30万円の月給を実現している影には、こうした現実が横たわっている。
 これを救いだすのは、農業経済の根底的な改革、分配と流通の合理化、インフラの整備などであろう。経済的恩恵をひとしく与えることが、構造的不均衡を書き替えていくことになる。
 日本は、自国の農業経済政策を課題とするとともに、インド農業の未来に自らを重ねて共同参画する道を選ぶべきである。
 インドの輸出規制に注文をつけるというような、姑息な発言は慎むべきである。
Posted by 森尻 純夫 at 22:57 | この記事のURL