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松井 二郎
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アダルトチルドレンとPTSD [2013年04月08日(Mon)]

  ◆これまでのあらすじ♪
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 1日2食を提唱し難病も治す甲田光雄医師のもと、クローン病の
 治療をはじめるも、根性がなく、脱線につぐ脱線をしているうちに
 甲田先生が他界。途方にくれていたが、

 免疫を高めることで難病を治す松本仁幸医学博士を知り、こんど
 こそはと松本理論による治療に取りくむ。完治への道は順調、
 であるかにみえた。

 が、免疫のリバウンド(いわゆる好転反応)があまりに激しく、
 免疫の高まりがあまりに遅い。
 どうも子供のときから積み重ねた激烈なストレスのせいらしい。
 このストレスを、なんとかしなければ……。




  ◆続・クローン病中ひざくりげ(40)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 初めて松本先生に診てもらったときのこと。
 「クローン病というのは、ストレスがなかったら、ならんはずなのや。病気になるまえ、強いストレスがあったと思うけど、それは今はない?」
 そうきかれた。

 ストレス――。

 このとき、即座に思い当たったのは仕事のストレスだった。
 IT部門のモーレツ社員だったとき、べつだん好きでもないプログラムやらサーバーの管理やらをして、家に帰るヒマもなく、おれは何のためにここに座っているのか、たえまなく自問していたのを思い出した。
 いまは、そこをやめて独立し、念願だった文章を書く仕事をしている。
 それならば、もうストレスは――

 「ありません」
 そう答えると、
 「よし! それなら治る」
 と先生はおっしゃった。

 しかし……ここまで書いてきたとおり、なかなか治ってこない。
 IT部員時代のストレスでは、なかったのだ。
 私のクローン病の原因は、もっと根深かった。
 学校で殴られ、家では父と兄に殴られ、母からは悩み相談をされて、毎日「おなかが痛い」と言っていた。
 もう治した、つもりになっていたアダルト・チルドレンが、いまだに私にストレスをかけ続けていたのである。

          ◇

 アダルト・チルドレンに加え、もうひとつ、やっかいなことが起きていた。
 いじめにあった子には、特徴的な症状として【 PTSD 】が出る。

 PTSD……心的外傷後ストレス性障害。

 これは戦争から帰ってきた兵士によく起きる症状として知られている。
 戦場ではいつどこから敵が襲ってくるのか分からない。常に不安と恐怖がある。これは激烈なストレスである。
 そのストレスに負けないようにするため、脳は体じゅうにステロイドホルモンをばらまく。これで交感神経がたかぶって、戦闘状態を維持できる。しかし体も心も休まらない。
 ために心身ともにボロボロになる。戦場から帰還したあとも、ながいあいだ、ひどければ一生、「常に何かに襲われている」ような不安と恐怖にさいなまれる。
 これをPTSDという。

 学校が私の戦場だった、といえば「大げさな」といわれるかもしれない。
 しかし、いつなんどき、授業中でさえ、どの角度からどんな攻撃をされるか分からず、私は常に不安と恐怖におびえていた。
 言葉をかえれば、常に強烈なストレスを浴びていた。

 大人になって、いじめがなくなったあとも、このPTSDのためにストレスを受け続けている。
 「松井くん」と呼ばれると、まずはビクッとする。
 そして、ああ、もう終わったんだ、大丈夫なんだと思い直し、平常心をつくってから、相手と接する。
 カウンセリングのたまものである。アダルト・チルドレン、PTSDの自覚があるから、知識で心をコントロールできているのだ。いちおうは。

 学校は卒業したのに、こんなことがまだ卒業できない。
 ベトナムはもう終わったのに……おれのベトナムはまだ終わっちゃいない!!(笑)
 あ、(笑)マークは、よけいであった。

          ◇

 それでも、家で安らぐことができれば、まだ、よかったのだ。ところが家も恐ろしい場所だった。ストレスから、私は、逃げ場がなかった。
 さらに困ったことに、私は、
 「こんな目にあうのは自分に存在価値がないからなのだ」
 と思い込んだ。
 あろうことか、自分に対して
 「死ね! 死ね!」
 と心のなかで言い続けた。

 自分への最も恐ろしい いじめっ子に自分がなっていたのだ。

          ◇

 「松井くんは、がんばり屋さんだねえ」

 幼いころ、よくそう言われた。
 たしかに、とくに勉強は人一倍がんばった。
 しかし――私はもっと早くに気づいて、「がんばる」のをやめるべきだったのだ。
 自己肯定感がない子供は、がんばらせてはいけない。ふつうに育っている子とがんばる動機がまったく違うからである。
 「ぼくは、生きていても価値がないんだ……。いまのままでは、人間の仲間入りができないんだ……」
 だからクラスメイトからいじめられる。
 だから親から愛されない。
 自分を認めてほしい。
 存在していてもいい、と。

 ここには「認知のゆがみ」が生じている。
 事実をありのままに受け取らず、私は、ゆがめて受け取っていた。
 実際には、クラスメイトたちはネクラな私ともコンタクトをとろうとしてちょっかいを出していただけだし、親はじゅうぶん私を愛していたのに伝える技術に欠けていたためうまくその愛が伝わっていなかった、もしくは私のほうに愛を感じる力が足りなかった、だけである。
 しかしそれは、今だからこそ分かることで、子供の私は、
 「生きていてもいい人間になれるまで、がんばらなければいけない」
 と思ってしまった。
 好かれないのは、愛されないのは、ぼくに何かダメなところがあるからだ。欠点があるからだ。
 それを全部なくさなければいけない。
 「完璧な人間にならなければ!」
 そう思うようになっていた。

 がんばっているあいだは、常にストレスがかかる。
 完璧になどなれるわけがない。
 なれるわけがないものを、目指すから、永遠にストレス漬けだ。

 誰のせいでもない。
 私は、自分の無知と欲から、ステロイドホルモンを出して自分で免疫を抑えてきたのだ。

 (つづく)




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   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ちなみにカウンセリングではどうしても超えられないカベがある。

 なぜ人は生きていることに価値があるのか。
 この、そもそもの出発点がどうしてもふにおちない。

 「読んでみてください」
 甲田光雄先生は、よく私に仏教の小冊子をくださった。

 " なんのために、生きねばならないか "。

 このカベを、越えさせたかったのであろう。
 先生は他界されてしまったけれど、いまでも仏教は学び続けている。


 仏教といえば思いだす友人に、長南 瑞生(おさなみ みずき)さんがいる。

 私(松井)は、ラクになれる薬をいくらすすめられても応じない周知のとおりの変人であるが、
 東大物理学科を卒業して仏教を伝える道にすすんだ長南(おさなみ)さんもそうとう変わっているといえよう。
 その長南さんが、

 「仏教史上初の、ウェブのみの通信講座をつくりました」

 というので、さっそく受講してみた、のだが
 ("ウェブのみ" とは、申込用紙とかテキストが紙で送られてきたり送り返したりということがなく、申込から受講まですべてウェブでできるということ)、

 これが、じつによかった。
 わかりやすい。内容が良い。受講が手軽。
 とっつきにくい題材であるが、長南(おさなみ)さんの説明が明快でいい。いまのところ、ウェブで仏教を知るにはこの講座がベストではないか。

 まずは無料のメルマガに登録できる。
 (このメルマガがまた、いいのだ)

 ご本人からの説明があるので、ご興味があれば無料登録されるといい。
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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

kao05.jpg スタローンが苦悩するあのシーン、人ごとには見れません。





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夢の実態 [2013年04月18日(Thu)]

  ◆続・クローン病中ひざくりげ(41)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 「敵襲だー!」

 ストレスを受けると体はそう思いこむ。大昔、ストレスといえば獣に襲われることだったからだ。
 「ストレスを感じてる、ということは、いま敵に襲われているのだな。じゃあ、すべてのパワーを戦いに使わなければ!」
 生き残るため、体はそう判断し、莫大なエネルギーを使う免疫(体の修復に使うパワー)をストップさせる。
 ストレスから解放されるまでこの状態は続く。つまり獣を倒すか逃げるかすれば、また免疫は働きはじめる。
 ところが、現代のストレスの特徴は、24時間ストレスから解放されないことである。ために24時間 免疫が止まっている人が少なくない。
 こんな人は難病の条件がひとつ整うのである。

 難病を治すには、薬をやめるのは言うに及ばず、「強すぎるストレス」もなくさなければならない。

          ◇

 仕事のストレスも、治療中は大敵である。

 「きみは今、仕事がどうとか言っとる立場やないんや!」

 だるくて仕事ができません、と松本先生に言ったら、お叱りをいただいた。

 だるいのは治療の成果である。
 免疫力を上げる治療をはじめると、体内の常在ウイルスであるヘルペスウイルスまでわざわざ見つけだして攻撃をはじめ、しかもこのウイルス、神経に住んでいるから、神経があおりをくらって損傷し異常な信号を出しはじめ、そのため全身をとてつもない倦怠感(けんたいかん)が襲うようになるのだ。
 こうなると仕事どころでない。

 けれども私には、原稿の〆切りというものがある。だるくて体がフトンにめりこんでいようが、地球の重力が10倍だろうが、書かねばならぬ。
 やっとパソコンをひらくのだけれど、頭の中までだるくて、遅々として進まない。〆切りが日に日に迫ってくる。けれど、仕上がらない。

 そのことを訴えたら、叱られたのだ。

 「生きていけさえすればええのや! 仕事は、減らせるだけ減らしなさい」

 迫ってくる〆切りがたいへんなストレスになっていることは、私も感じていた。
 でも……。

 この松井二郎には夢がある!
 甲田式1日2食を広め、病気の人をつくらないという夢がッ!

 しかも松本医学まで知ってしまった。
 甲田医学で、予防は完璧。
 松本医学で、治療は鉄壁。
 この2つを知る人が、知らない人よりも多くなれば、医学は新時代をむかえるッ。
 病気をつくる医学から、病気をなくす医学へとシフトする。
 治せない医学から、治せる医学へとチェンジする。

 "医学2.0" の誕生だァーッ!

 けれども……仕事、減らすしかない、か……。

          ◇

 「ネットの世界で2食を広めてやるぜ」

 そう思ってメルマガを創刊したとき、すでにクローン病であったが、まだ初期で、2食にさえしていれば、いくらでも体が動いて、4時間くらいしか寝ずに働いていても平気だった。
 移動するときは、つねに小走り。階段はいつも駆け上がる、駆け下りる。エスカレーターでは必ずあいているほうの側を、やはり小走り。朝、起床したらまず本を読み、夜、仕事をおえて帰宅したあとも、寝るまで本を読む。または仕事を続ける。電車を待つ2〜3分も、何もしていないことに耐えられず、本をひらく。
 体調は良くてもいちおう病人であることがアタマからスッ飛んでいた。
 そしたら、じょじょに悪化。悪くなりはじめると、加速して、みるみる重症化。すっかりクローン病患者らしくなっちゃった。

          ◇

 ダメなのだ、私は。放っておくと、どこまででもムリをする。そして、自分がムリをしていることに、そのときは全く気づかない。
 この心のクセを、なんとかしないと、体のほうも治ってこないわけだ。

 こういう、つねに心を追い立てている状態が、交感神経を刺激し、ステロイドホルモン(コルチゾール)を大量にバラまき、免疫力は異常に低下し、無害な化学物質に対しても
 「敵襲だー!」
 と攻撃し、免疫が異常に低下しているからこれを無害と学習せず、一生攻撃し続け、体が一生キズつき続ける。これを難病という。

 この戦いをやめさせるには、交感神経の緊張状態をとくこと。せかせかと、なにかに追い立てられているような心の持ち方、生き方を変えることである。
 そうしない限り、いくらハリや漢方をやっても、治らない。

          ◇

 「きみは心で免疫をおさえてしまっているのや。だからリバウンドばかりくり返す」

 松本先生からそうご指摘いただいたことがあった。治療を始めて1年がたったころである。

 反省して、自分の心のうごきに気をつけることにした。
 たとえば、昼のひざなか、病人らしくゴロゴロしている。すると
 「寝てるヒマがあったら、仕事しろ」
 と、心がダダをこねてくるのである。
 その心に、
 「きみは病人なのだ。病人は、休むものだ。いまは寝るのもだいじな仕事」
 と言い聞かせ、まっ昼間からフトンに入っている自分を、許してやる。

 せっかく、こんなすごいことを知らされたのだ、もっと、もっと仕事をしたい。心が、はやる。

 けれども、仕事を、減らした。

          ◇

 これまで私は自分勝手に免疫を抑えてきた。

 「自分勝手に」とは、松本先生がホームページのなかで使っておられる言葉だ。
 免疫を抑えたのは、ほかでもない、ステロイドホルモンを出し続けた私だからである。
 病気に負けずに、仕事したい。それも、ただ仕事するのではダメだ。みんなから好かれたい。誰にも嫌われたくない。いい顔をしたい。
 その欲のため、いますぐ休まなければいけない体を、休ませなかった。体と、心のケアを、後回しにしてきた。

 "何かしなければ、私なんか、生きていたって価値がない。"

 この恐怖感から逃げたかった。

 私には夢がある、といったら聞こえがいいが、これが実態だ。「自分勝手」な、都合だ。
 免疫の都合は、どうなるのだ。そんなこと考えたこともなかった。

 そのツケを、いま、払っているのだ。
 借りたものを返しているのだ。
 すべて身から出た錆(さび)なのだ。

 だから、"休む" ことが、いまは重要な仕事であらねばならぬ。
 1日の「やることリスト」の中に、"しっかり休憩をとる" とか "寝る" とか書きこんだ。昔の反省から、予定に組みこんででもそうすることにしたのである。
 まっ昼間でも、シンドくなったらフトンに入る。
 またぞろ、心がわめきだす。
 ああ、こんな、何もしていなかったら、私なんか、生きていたって価値が……。
 わき上がってくる思いを、なだめすかせる。

 私の価値?

 そんなもん、どうだっていいことじゃないか。

 それより、いまは、休め。寝ていろ。治せ。
 そうして、本当に、みなさんのお役に立てる体にしなさい。
 おっと、いかん、いまは、忘れていなくっちゃ。

 (つづく)




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 「生きる意味のメルマガ」、まだハラに落ちていないようです……。

 前回もすこし書きましたが、東大卒の友人が仏教をつたえる道にすすみまして(どーゆー経歴だ)、いま彼のメルマガを読んでます。

 苦しくてもなぜ自殺してはいけないのか。なぜ人は生きることに価値があるのか。

 その答えが、現在の実存哲学よりも2600年前にハッキリと解説されているとは。
 メルマガの内容も宗教宗教してないところが気に入った。


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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

kao02.jpg 今回2つの文章に元ネタがあります。

 「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!」
 「アルティミット・シイング カーズの誕生だッーっ」

 いつもすんません。
 キュイイイン





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テレビ出演の依頼がありました [2013年04月27日(Sat)]

  ◆続・クローン病中ひざくりげ(42)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 テレビ出演を、断った。

 まえに書いた本『朝食を抜くと、なぜ健康になるのか?』を読んだというテレビ局の人から、出演の依頼があったのだ。
 話があったのは、2011年末。番組は12月に東京で収録、年明けの特番で放送というものだった。

 出たいッ!

 でも、なあ……。いまの体じゃ、とても東京には行けない。収録も無理だろう。
 泣く泣く、断るしかなかった。
 もし出ていたら、テリー伊藤さんとか伊集院光さんとかに朝食抜きの話を熱く語っていたはずだったのだが。残念である。

 ま、いまはクローン病を治すこと、これが、目下、私の仕事だ。

          ◇

 クローン病のおかげで、価値観が、だいぶ変わった。

 競争社会に勝ち抜くこと。人をかきわけ、かきわけ、前へ前へ出ていくこと。 それがよいのだと思っていた。
 いや、よいことだと思うよ。自分の能力を、適材適所に置き、世のため人のため働くのはすばらしいことだ。
 でも、適材適所であることが、大事である。

 ずいぶん、背伸びしてきた。受験勉強をはじめたころからだ。
 背伸びして、少しでも能力を伸ばすことはよいことだけれど、背伸びも、しすぎれば、足を痛める。転んでしまう。
 私は、転んだ。すってんころりん。ケガをした。
 ケガには、病名がついた。クローン病といった。

 それでも、まだ懲(こ)りなかった。
 まともに働くことができないのなら、ネットの世界で有名人になってやろう。そう企(たくら)んだ。
 企みは、いくらか成功しかけていた。
 しかし、ケガもひどくなっていった。
 とうとう腹が痛くて動けなくなった。

 東京を離れよう。

 功名を求める生活は、もういいだろう。
 富山にうつり住んだ。
 ラッシュアワーもなかった。満員電車で押しつぶされることもなくなった。だいたい、電車、1時間に1本しかこない。

 適材適所に、落ち着いてきてるんじゃないか。

          ◇

 ほぼ寝たきりの日々を送っているが、たまには散歩ていどに外出する。
 外出して、ひとつ、気がついたことがあった。

 「あれ? オレ、人目を気にしてないなあ……」

 家で寝てばかりいると、自分の見てくれが、どーでもよくなってくる。髪はボサボサ、ひげはボーボー。まれに外出するにも、行き先は病院、おしりは激痛。髪ボサボサ、ひげボーボーで人前に出る。かまっちゃおれぬ。

 いままでの私には、こんなの、許せなかった。
 出かけるときには、髪型はキマっているか、いやキマっていないまでも、おかしくないか、ヒゲのそり残しはないか、鏡にむかって入念にチェック、にっこり笑って、よし、笑顔もオッケー、服はこれでいいか、スーツのときなら、合うのはこのシャツか、だったらネクタイはこれか、いやこれだ、いやいや、やっぱりこっち、いや元に戻そう、ようやく外出の準備がととのって、外に出れば、買い物ひとつするにも、姿勢を正し、歩きかたを気にし、商品の棚に手を伸ばす、伸ばしかたにまで気をつかい、きっと誰か見ている、笑われないようにしなくちゃいけない、いや、カッコいいと思われなければダメだ、なあんて、考えているのだけれど、実際だれも見ちゃいない。
 ありもしない視線を、終日、気にして、クタクタになっていた。

 ああ、いままで、こうやって、ステロイドホルモンを体にまき散らしていたんだ。
 いや、きっと、いまもまだ、知らないうちにやっちゃっているにちがいない。
 やっているから治らないのだ。

          ◇

 いまの私の心は――まともな人間の心ではない。

 私は一人で仕事をしている。
 仕事しているあいだ、ずっと一人でいる。誰とも接さず、誰とも話さない。
 そんな仕事をえらんだのは、人さまの前に自分をさらけ出して生きるのが怖かったから。
 文章家になりたい、というのは夢であったが、それは、文章ならばどうとでも自分をとり繕(つくろ)うことができるという気持ちもあった。
 なにが文章家か。引きこもっただけじゃないか。

 自分を、閉じた。
 一人で生きていこうと思った。
 それは強さでも何でもなかった。誰よりも弱い人間だったからなのだ。

 そうやって、今日まで来てしまった。気がついたら、人の中で生きていくこともできない人間になっていた。
 人の心がわからない。人のために何かしてやろうという気がない。あ、あの人、つらそうだな、困っているな、と気がつくことができない。いや、気にかけようという気がない。
 自分だけの世界で生きる、つまらない人間になってしまった。

 だが――ここが出発点なら、今日、この日が出発点なら、逆に、なんにも怖いものはないんだ。
 最低から、私は出発するのだ。これ以上は悪くならない。

 少しずつでいい。真人間に、なっていくんだ。

          ◇

 仕事を減らしたので、ストレスも減ったが、お金も減った。

 車を、手放した。
 15万円で買った、くたびれた中古の軽自動車だったが、それなりに愛車だった。
 けれども、おしりからウミが出続けていて、痛くてたまらず、どうせ乗れない。車は駐車場でひとり佇(たたず)んでいる。駐車場代もバカにならないし、そろそろ車検もきそうだということで、悲しいが手放すことにしたのである。

 いろんなものが、手から離れていく。
 手放せ。手放せ。どんどん手放せ。
 この調子で、クローン病も、手放せ。

 (つづく)




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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 kao04.jpgうおおおおテレビ出たかったああ!

 (手放せてねぇぞ)





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