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松井 二郎
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ああカンちがい男 [2013年02月09日(Sat)]

  ◆続・クローン病中ひざくりげ(34)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 「ぼくはどうして、こんなにダメなんだろう」

 6年間、小学校でいじめ抜かれた私は、まったく自信喪失していた。
 たとえば、次男の私が着る服はすべて兄のおさがりであったが、それにたいして私はいっさい親に文句をいわなかった。むしろ心地よかった。ぼくみたいな、だめ、なヤツは、服なんてボロでいいのだ。ボロければボロいほどよい。ボロいぼくには、ボロい服がよく似合う。
 「新しい服を、買いにいくぞ」
 めったにないことだが、親がそんなことを言いだすと、私はほとんど恐怖した。"しまむら" で新品の服を試着させられながら、ああ、こんなキレイな服は、もったいない、服がかわいそうだ、こんなボロいぼくに着られてしまうなんて、と思った。

 そんな私も、中学生になった。みんなピカピカの学ランに身をつつんで入学式をむかえるなか、あいかわらず私は兄のおさがりで、慣れない学ランながら、ボロいという点ではしっくりきた。

 田舎、の言葉のまえにドがつくほどの田舎町である。またしても、小学校のメンバーがそのまま中学のクラスメートとなった。どうせこの先もいじめられるんだろうなあ、とさえ考えないほど、いじめられる自分を私は当たりまえのものとして肯定していた。

          ◇

 ド田舎の中学校でも、定期テストくらいはある。
 父親は、兄に受講させて良い結果がでていた "進研ゼミ" を、私にもとらせた。テスト対策としてである。れいによって私は「もったいない」と感じながらも、月に2回届くブ厚い封筒をあけて教材をとりだし、そして、「もったいないから」、すべてを完璧にやり遂げた。まちがえた問題はチェックしておき、あとでもう1回やる。またまちがえたら、またあとでやるのだ。どの問題にも答えられるようになった。

 すると1年生の最初の中間テストで、私は学年147人中1位をとってしまった。
 ド田舎の学校である。この時期、こんなアホみたいに勉強している子は、まだいなかったのだ。それなりに広い町だったのに、町に中学校は、一校しかなかった。競争もへたくれもなかった。

 だが、私はカンちがいをした。
 ボロいぼくが、学年トップ? そんなばかな。ほんとうに? ほんとにほんと? もらった成績表には、1位、と記されている。うそじゃないらしい。
 朝の全校朝礼のとき、私は学年の端から端まで、ぐるっと見回した。このなかで、ぼくが、1位!

 「ぼくは、ダメなやつなんかじゃ、なかったんじゃないか? ダメなやつらが、ダメじゃないぼくを、いじめてたんじゃないのか?」

 そして予期しないことが起きた。
 いじめが、おさまったのだ。

          ◇

 たんに勉強バカだったにすぎないのだが、成績が良いという理由だけで学級委員長にもさせられた。
 いじめられなくなって、少しずつ友達もできるようになった。
 性格が明るくなりはじめた。教室で騒ぐ、という思いもよらなかった行動もとるようになった。ぼくが、こんなことができるようになるなんて。

 ああ、ぼくは、地獄を、抜けたんだ。
 もう、いじめられることはないんだ。

 「自信。」が、つきはじめていた。いよいよ私は "進研ゼミ" をしゃぶり尽くすようにやりまくり、定期テストがくるたび1という数字を成績表に刻んだ。

 まずいことに、私はこれを鼻にかけはじめた。いま振り返れば、そうだった。言動のはしばしに、ひとを見下す態度があらわれていた。学級委員長も中学3年まで任されて、馬子にも衣装、カンちがい男はクラスをビシッと仕切るようにさえなった。
 友達とのつきあいかたも、正しくなかった。
 おとなしい子には、徹底的に冷たくあたった。
 「田村ぁ! ○○ちゃんが見てるぞぉ〜っ!」
 田村くん(仮名)は、いい男で、その○○ちゃんから好かれていることがうわさになっていた。
 「やめろよ……」
 微笑する田村くんに、私は○○ちゃん、○○ちゃんと連呼した。

 性格が変わった私に、クラスの雰囲気が冷たくなりだした。
 子供社会は残虐である。忘れていた。

 ある日、
 「おはよー!」
 いつもどおりに教室に入ると、クラスメートたちが、ちら、とこちらを向いて、なにも言わずにそのまま顔を戻した。
 あれ? なになに? これ。みんな、おっかしーの。
 まだ何が起こったか気づかない私は、ふつうに席に着いた。

 休み時間。
 「よぉ! 田村ぁ!」
 田村くんはこちらを向かなかった。
 いつも声をかけてくる山岡くん(仮名)も、きょうは私に近づいてこない。なにもしらず、私はみんなの輪に入っていった。しかし、だれも私に話しかけてこないし、私が話すと、しんとした。
 なんだかおかしい。

 こうなると、だれともしゃべらず、おとなしくしているしかない。小学校のときのように、また私は無言の男になった。
 季節は冬、受験期になっていた。のんきな学校も、さすがにみんな勉強をしだしている。休み時間には友達同士で勉強を教えあうなか、私は自分の机にぽつんと座っていた。

 集団無視。
 それは、いじめよりもはるかにつらい、子供社会での制裁であった。あとでわかったことであるが、無視を決定したのは田村くんだった。

 私が没落したのをみて、制裁はだんだんエスカレートした。
 ひとりの女子が、「これ、たのまれた」と言って紙切れを手渡してきた。2ツ折りされた紙をひらくと、こう書いてある。
 "ずっとあなたが好きでした。きょうの放課後、体育館の裏にきてください。あだ名 アリス"
 生まれて初めてのことである。ああ。よりにもよって、こんなときに。いま、ぼくがこんなにみじめであることを、この子はしらないのだ。アリス? だれだ。ぜんぜん心あたりがない。
 知らんふりするわけにもいかない。まったく気が進まないなか、いつもどおり一日無言で過ごしたあと、放課後、体育館にむかった。
 すると、なんだか様子がヘンなのだ。クラスの男子全員がうろついている。

 やられた!

 山岡くんがニタつきながら近づいてきた。
 「どーしたのォ?」
 男子全員、大爆笑である。
 私は逃げるようにその場を立ち去った。背中にいつまでも笑い声が浴びせられた。

 集団無視は集団いじめに切りかえられた。
 ものを隠された。机の中の教科書とノートを上履きの跡だらけにされた。授業中、うしろから丸めた紙が飛んできて頭に当てられ、クスクス笑いがおきた。休み時間、
 「田村ぁ、なんか臭くない?」と山岡、
 「ああ、くせぇな」
 「何くせぇ?」
 「松井くせぇ」
 「あ、あそこにいた。おい、松井、なんでいんだよ。くせぇよ! バぁカ。バぁ! バぁ! ブアぁぁぁぁ」
 以下、省略。

 田村くんと、山岡くんを、それまで私は親友だと思っていた。しかしそれは私の勝手な思い込みで、友達との正しいつきあいかたを知らない私は、いま振り返ってようやく思いあたるのだけれど、ずいぶんひどいことをした。小学校でのいじめとはちがい、こんどは完全に私が悪い。当然の報いだと思っている。とはいえ彼らも少々やりすぎた感はある。

 「しばらくカンちがいしてしまったけれど、やっぱりぼくは、だめ、なヤツだった」

          ◇

 卒業まで、残り3ヵ月ほどである。カレンダーの日付が1日また1日と消えて、学校から脱出できる日が近付いてくることだけが、毎日の幽(かす)かな楽しみとなった。
 学校には毎日登校した。行けばどんなひどいことが待っているか知れないのだが、休むのは連中に屈したことになると思っていた。崩れつつある自信の、最後の砦(とりで)を守りたかった。とにかく黙って教室に入り、席に着き、その日1日を機械のように過ごせばよいことである。なにも感じまい。思うまい。そうだ、ぼくは生きていないのだ。そう考えればいい。このクラスも存在していないことにしよう。田村も山岡も存在しない。
 私は黙りこくった人形と化した。男子から何をされても、それを女子から見られても、無表情で耐える、心を殺した、もぬけのカラになった。

 卒業するまでだ。この防衛策は、卒業したら、もとに戻そう。

 もとには戻らなかった。

 (つづく)




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   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 いまクローン病ですが、このころが人生でいちばん苦しかった時期ですね。

 当時のじぶんに読ませてやりたいのが、「生きる意味のメルマガ」。

 前回もすこし書きましたが、東大卒の友人が仏教をつたえる道にすすみまして(どーゆー経歴だ)、いま彼のメルマガを読んでます。

 苦しくてもなぜ自殺してはいけないのか。

 その答えが、現在の実存哲学よりも2600年前にハッキリと解説されているとは。
 メルマガの内容も宗教宗教してないところがいい。


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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

kao07.jpg 集団いじめを率いた2人は、仮名としました。前回もそうでしたが、これも、彼らを糾弾することが目的ではないからです。このようなストレスの蓄積が、免疫力を下げ、ひいては難病にまで発展することを書いておきたいのです。
 また、書くことで、自身の心の整理をし、いまなお尾を引くストレスから脱却しなければならない。そうでなければ免疫力が回復しないと考えられるのです。





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心に命が入っていかない [2013年02月18日(Mon)]

  ◆続・クローン病中ひざくりげ(35)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ひとは何でも、「ふり」をしていれば板についてしまう。

 たとえば制服というものがある。あれは、学校なら学校、職場なら職場になじんでから着るのではなく、なじむために着るものである。組織の一員であるような「ふり」をしているうちに、いつのまにかその組織になじんでしまう。
 バカのふりをすればバカになり、利口のふりをすれば本当に利口になるのである。気をつけねばならぬ。

 そんなこと、子供の私はしらない。

 「松井、くせぇよ」と言われても無反応、ゴミを投げられても無表情。
 それは何も感じていないからではなく、あまりにも感じすぎるから、まともにその感情を感じてしまったら、きっと私は、死ぬしかなかったから、死にたくなかったから、心を一時的に殺しておくことにしたのである。
 中学を卒業すれば、いじめも終わる。たった3ヵ月のことではないか。

 心を殺した3ヵ月は、長かった。果てしのない時間であった。
 ぜんぜん、経過しないのだ。止まった時のなかで、永遠にいじめられている錯覚がした。
 その3ヵ月が過ぎ、中学を卒業したころには、私の心は、どこか、構造が変わってしまったようだった。

          ◇

 県立M高等学校。
 私は、中学を逃げるように卒業し、この男子校へと隠れた。

 M高は、県下屈指の進学校で、毎年トップ5〜6人が東大へ行き、2〜30人が慶応・早稲田に進み、それに次ぐ成績の者は東北大学をめざすのが伝統であった。
 勉強しか取り柄のない私は、親と教師のすすめるままM高を受験し、合格した。
 そして何の感慨もなかった。

 始業式のまえに、いちどオリエンテーションというのがあって、そのとき、どっさり、教科書と問題集が配られた。
 「始業式までに、ここと、ここと、ここと、ここまでやっておくように」
 もう大学への受験勉強は始まっているのであった。

 クラスメートたちはいかにも頭が良さそうである。
 勉強バカの私とはちがって、ほとんどの人は性格も朗らか、運動もできて、中学のときはさぞ女子にモテていたであろうと思われた。
 「松井くんか。じゃあ、まっちゃんだな」
 さっそく、席の近い生徒たちが友達になってくれた。

 みんな架空の世界に感じた。

 なんだか、教室が、ぷかぷか浮いているようなのである。
 歩いている足も、浮いている感じがする。
 「まっちゃん、まっちゃん」
 と話しかけてくる相手が、うすい、目にみえないカーテンの向こうにいるみたいなのである。声も、なんだか遠くで響いているように聞こえる。

 自分が、ここにいて、ここにいないような気がした。
 ここはどこだろう。
 M高の教室にきまっているのだが、それをよく自覚できない。
 それどころか、自分というものが本当に「いる」のか、わからなくなっていた。
 これはだれだ。
 おれだ。
 おれ……なのか? ほんとうに?
 おれって何だ。
 体が、自分のものでない気がする。
 この体は……おれの体か?
 うしろに、自分を見ている自分がいる。
 ああ、そっちが、ほんとうのおれか。
 じゃあ、おれの住む世界って、何なんだ。
 ここはどこだ?
 ――と、堂々めぐりである。

 このような感覚を心理学で "離人感"(りじんかん)という。
 虐待をうけた子供がよく陥ってしまう心の状態で、親からの暴力になすすべのない子供は「いま起きていることはおとぎ話のなかのこと」と思うことで自分の心が壊れるのを防ごうとするのだが、そうしているうちに板について、結局、心が壊れてしまうのだ。

 「バレては、いけない」
 私はつとめて普通に振る舞った。
 いやだ。もう、いやだ。

 私がいじめられるべき人間であることを知られてはいけない!

 私は完全に、仮面をかぶった。
 へらへら笑いに終始した。

 いじめが終われば、殺した心に命を吹きこむつもりであった。
 それなのに、吹きこもうとしても、心に、命が入っていかない。
 生き返らなかった。
 教室にいるときも、登下校するときも、足が浮いているどころか、死んだ人間が歩いているような感覚になっていた。

          ◇

 もう勉強への意欲は失っていた。

 こんな状態であるから、あたりまえのことである。
 それに、そもそも私が中学のとき死ぬほど勉強したのは、それによって一時期、いじめが止(や)んだからだ。実用性があったからである。
 それが、中学生活の最後に、くつがえった。卒業間際、最後の最後で、あのざまだ。成績は、いじめの防波堤にならない。
 もはや勉強に何の意味もない。

 そして私は、高校3年間、勉強しかしなかったのである。

 価値のない自分は、価値のないことをしているのがふさわしい。そう思った。
 価値のない勉強は、つらかった。

 罰。とも思った。
 私は罰せられねばならない。
 なぜ、そう思うのか、自分でもわからなかった。

 しかしこれも心理学ではとっくに解き明かされている心の状態で、あまりにもつらい体験をした者は、いつまでもその状況に自分を置かなければ気が済まなくなる。つらい体験を受けていることを正当化するために、自分はつらい体験を受けるべき人間なのだと思いこむようになるのである。したがって、つらいことがなくなると、自分で自分をつらい目にあわせるようになる。
 これは "自己罰則" と名づけられている。

 中学のときの通信教育に加えて、親は塾にも通わせた。地元の名物塾で、M高の進学実績はほとんどこの塾の実績であるともっぱらのうわさであった。
 放課後は塾へ行き、日曜日も塾へ行った。
 ほかのことは、しなかった。

 罰だ。
 こんな、だめ、なヤツは、徹底的に苦しめなければならない。

          ◇

 しかし、高校時代、いちばんストレスになったのは、勉強ではない。

 あの田村くんと同じ高校になってしまったことである。

 (つづく)




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 闘病していると、どうしても突きあたるカベがある。

 " なんのために、オレはここまでするのか " だ。

 好きなものも食べられない、思うように動けない、仕事もろくにできない。
 一日、天井を見上げ、ジッと痛みに耐えていることに、どんな意味があるのか。
 治ったら元気になれる、といっても、治ったところであと3〜40年もしたら死んでしまうのだ。
 だったら、つらい東洋医療などやめて、死ぬまで薬漬けになってラクをするという道もあるのだ……。

 「これ、読んでみてください」
 甲田光雄先生は、よく私に仏教の小冊子をくださった。

 " なんのために、生きねばならないか "。

 このカベを、越えさせたかったのであろう。
 先生は他界されてしまったけれど、いまでも仏教は学び続けている。

 仏教といえば思いだす友人に、長南 瑞生(おさなみ みずき)さんがいる。

 私(松井)は、ラクになれる薬をいくらすすめられても応じない周知のとおりの変人であるが、
 東大物理学科を卒業して仏教を伝える道にすすんだ長南(おさなみ)さんもそうとう変わっているといえよう。
 その長南さんが、

 「仏教史上初の、ウェブのみの通信講座をつくりました」

 というので、さっそく受講してみた、のだが
 ("ウェブのみ" とは、申込用紙とかテキストが紙で送られてきたり送り返したりということがなく、申込から受講まですべてウェブでできるということ)、

 これが、じつによかった。
 わかりやすい。内容が良い。受講が手軽。
 とっつきにくい題材であるが、長南(おさなみ)さんの説明が明快でいい。いまのところ、ウェブで仏教を知るにはこの講座がベストではないか。

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 (このメルマガがまた、いいのだ)

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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

kao01.jpg いよいよ何のメルマガだか分からなくなってきました。
 が、免疫の話をしてるんです、これで……。





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ローカル列車地獄旅 [2013年02月28日(Thu)]

  ◆続・クローン病中ひざくりげ(36)
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 初めて、M高へ登校する朝のことであった。

 M高へは地元のローカル列車を利用して通わなければならない。これがまた、すごい電車で、田んぼのあぜ道、森の中、山のあいだを、通常1両編成でトボトボ走る、マニア受けしそうな超ド田舎線なのである。赤字が続き、廃線にする話が出ていたのを、地元住民が反対して存続させた経緯があるほどだった。
 マニアにはたまらないだろうが、利用者には別の意味でたまらない。この1両編成の電車が、1時間に1本しか来ないのだ。
 したがって、朝は、朝だけはすごいことになる。M高のほかにも通学のためにこの電車をつかう生徒たちがいて、その全員が、朝7時の電車を逃すと遅刻するほかはなく、ここを先途(せんど)とスシ詰め状態で乗り込むのである。赤字電車はこの登校時間だけが唯一のかき入れ時で、このときだけは奇跡の3両編成になるのであった。

 その3両編成が来るのを、私は無人の駅で待っていた。私のほかにも同じ中学からM高に合格した者が何人かいて、彼らもちらほら現れた。
 そのなかに、私は、彼をみつけたのだ。
 田村!
 なんてことだ。こいつも……いや、成績からいって予想はしていたが、やっぱりこいつと、M高でもいっしょになるのか。
 またしても学校選択の余地がない田舎の弊害がでた。
 電車が来るまで、同じ中学同士、しぜんと輪になってたわいもない話をした。私と田村くんは、とうぜん、輪の円周上でいちばん遠くなる2点に位置をとっている。
 つい最近まで私が「無視」されていたのを知らない人は、私にふつうに話しかけてくれたが、私はそれに応対することにもまごついてしまった。

 大丈夫。
 大丈夫だ。こうして、田村とは、知らんぷりしていればいい。田村も、もはや私を相手にしないであろう。
 たったの3年間ではないか。3年、ガマンすれば、こいつらともオサラバだ。こんどこそ、オサラバだ。もう私を知る人は、こんどこそ誰もいなくなる。
 それまで、「また耐えればいいだけ」のことだ。

 電車がきた。呉越同舟(ごえつどうしゅう)となったスシ詰め電車は、30分かけて私たちをM高まで運んだ。

          ◇

 「たったの3年間」は、長かった。

 田村くんとはさいわい別のクラスになったものの、朝は必ず会わなければならない。知らんぷりしていればいいといっても、同じ中学出身者はわずかなのであるから、駅の待合室でも、電車に乗ったあとも、私だけ田村くんとよそよそしくしていればどうしてもバレる。輪の雰囲気がおかしくなるのである。

 いまは私に話しかけてくれている友達も、いつか気がついて、私を輪から放り出すのではないか? ある日突然、話しかけてこなくなるのではないか? 突然、集団無視がはじまった、あの日のように。

 バレる。きっとバレる。私が「いじめられるべき人間である」ことが、またバレてしまう!

 イヤな予感は、そろそろと的中しはじめた。
 高校生活も落ち着くと、電車のなかでも新しい友達グループができる。同じ中学同士の輪はしだいに解散となり、M高での同じクラス同士で集まるようになっていた。
 「田村くんグループ」が、できていた。
 田村くんグループは、決して私に近づいてこないのだ。席がなくて近くになってしまったときも、決して私には話しかけない。それですんでいるあいだは、まだ、よかった。

 離れたところから、私のほうを見てなにやら話し、クスクス笑いをはじめるようになったのである。

 朝の電車はスシ詰めであるから彼らもそんなことをする余裕はないが、帰りの電車は朝のようには混まない。放課後、好きなように帰ればいいのであるから、17時、18時、19時くらいのどれかから好きな時間を選んでそれぞれが乗るのだ。それでも、1時間に1本、1両編成の電車では、どうしてもハチ合わせになる。帰りの電車も2〜3日に1回は、田村くんと同じ電車、同じ車両になった。
 すると、どうも、グループ全員、こちらを見てニヤニヤしているのだ。

 おれのことを笑っているのだ!

 気のせいか。そうも思った。こんなときは実際に気のせいの場合が多いのである。自己評価の低すぎる人は、街なかで見ず知らずの人が笑っているだけで「私のことを笑っているのだ」と思ってしまうのである。
 気のせいか。気のせいだよ。いくらなんでも、高校生にもなって、天下のM高生ともあろうものが、それこそ「女の腐ったやつ」みたいに、ネチネチ、いじめの続きみたいなまねをするだろうか。気のせい。気のせいで、あってくれ。

 しかし、あるときこんな会話が耳に入ってきてしまった。

「あいつが? そんなイヤなやつなのか」
「ああ」
「おれが、ちょっと言ってきてやろうか」
「はは。いいよ、よせよ」

 やっぱりおれのことだ!

 そしてさらに、私と話をしてくれていた人も、ひとり、またひとり、田村くんの側についていった。
 考えてみれば、当たりまえのことだ。こんなネクラ状態の男と友達になってくれるのはよほど気のいいヤツで、ふつうは離れていくにきまっている。またしても、自分が悪いのだ。が、そんなこと、このときの私にはわからない。
 高校になってから新しく私と友達になってくれた人もいたが、彼らもいつ「田村くん側」になるだろうかと、私は電車のなかでつねに戦々恐々としていた。

 電車のなかに、中学校の教室が現出してしまっていた。

          ◇

 M高のそばには、M女子高という女子校があった。

 このM女子高に通う生徒も電車を使わなければならない。中学時代の知った顔もそのなかにあるのだ。
 知った顔、どころか、ひそかに好きだった女の子である。
「松井くん、おはよっ!」
 くったくのない子なのである。まぶしい笑顔を、こんな私にもふりまいてくれて、私だけでなく、だれにでもそうで、それでいてだれからも嫌われない、心身ともに健康な女の子である。好き、だけれど、それはあこがれといったほうがよさそうなもので、よもや付き合いたいとか、告白したいなどとは思いもよらない。
「おはよ……」
 こうしてあいさつを交わせるだけで、つらい高校生活に、幽(かす)かに生きるよろこびがわいた。
「ねーねー」
 あいさつだけでなく、会話をしてくれることさえあった。そんなときは、私の心は最高に弾(はず)んだ。

 とうぜん彼女は、出身校が同じである田村くんとも話すのだ。私と話すのと同じように、楽しそうに話している。
 私の心のなかに恐ろしい考えが浮かんだ。
 ――彼女にも、バレるんじゃないか?
 しかし、そんな危惧とは裏腹に、いつまでたっても、彼女は私にあいさつを続けるのだ。よかった。まだ、バレていないのか。

 ちがう!
 知っているんだ。高校でも、おれが、こんな惨(みじ)めな目にあっているのを、知っているんだ。知っているからこそ、いたわってくれているんだ。
 だったら、無視されるよりもつらい。こんな、惨めな、おれの姿を見られるなんて。同情されるなんて。いや、彼女は、同情じゃないんだ。田村くんと仲が悪いからって、それが、なあに? あたしは田村くんと友達だけど、松井くんとも、友達じゃん。きっとそう考えている。
 それが、それがつらいのだ。まぶしいのだ。ゴミ以下の汚いおれと、キラキラと無垢に輝く彼女。接してはならない! おれは、つらいし、彼女は、汚れる。
 おれなんかを相手にしちゃあだめだ。
「ねーねー、松井くん」
 きみが離れてくれないなら、こっちから離れるしかない。

 私は彼女を、無視するようにしたのである。
 あいさつをしてきても、気づかないフリをした。それでも彼女はしつこく私とコンタクトをはかろうとしてくれた。
 やめろ。たのむ、やめてくれ。こんな、みじめなおれを、見ないでくれ。見るな!
 彼女が話しかけてくるたび、私は断腸の思いで振り切った。しだいに、さすがの彼女も、あきらめたようだ。なぜか避けられてしまう松井くん、には、話しかけてこなくなった。

 これで、よし。これで、高校生活、私を楽しませてくれるものは、何もない。幽かな生きるよろこびも、ない。それが私にふさわしいのだ。罰だ。罰だ。罰だ罰だ罰だ罰だ罰だ!(エヴァンゲリオンのイカリシンジのマネではない)

 電車に揺られているあいだ、田村くんたちからの視線と、彼女からの視線と、両方がつらかった。

          ◇

 こうして私は地獄の電車に3年間乗りこんだ。これがまた私の心をズタズタにしたらしい。
 私の体に異常が起きはじめた。

 慢性疲労がはじまったのだ。

 (つづく)




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 いまクローン病ですが、このころが人生でいちばん苦しかった時期ですね。

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 ◆ 編集後記
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

kao07.jpg 彼女には10年後、家まで謝りに行きました。そしたら、「え? そんなことあったっけ」と、くったくなく笑っていました。





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