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松井 二郎
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最後のコロッケ [2009年11月20日(Fri)]

 え〜と、

 わたくしごとで恐縮ですが、


 そのぉ〜、




 このたび、バツイチになりました。
















 え え え え ー っ !?
















 と自分で驚くのもヘンですが、

 ハイ、そうなんです。




 こんなこと、わざわざ、メルマガで言わんでも
 え〜やろ、

 と思ってたんですが、


 そういや、結婚会見を、メルマガでハデにやったんだった。


 じゃ、離婚会見も、メルマガでする義務があるよな〜、
 と考えなおし、

 このように会見の席をもうけたしだいです。




 「でも、仲よさそーだったのに」

 と、私を直接しっている方々はビックリされるかも
 しれませんが、

 いや、仲、いいんですよ。今なお。


 ただ、

 両者は別々の道を歩むようになって久しく、

 同じ住所ではあるけれども、
 ほとんど会うこともなくなっていたので、

 お互いの前進を祝福しあい、

 戸籍を状況に即したかたちにした、という
 しだいです。




 で、これを機に、
 わたしは事務所を富山にうつしました。

 「えええー? いつぅ?」

 と、また驚かれるかもしれませんが、

 10年すんだ東京を
 あとにしました。


 引っ越した先は、
 実家の風景にソックリの、いいところです。

 いつかここに住みたいと思っていたのです。


 離れるものあれば、近づくものあり、
 夢が、ひとつ実現しました。




 このように
 身のうえに大きな変化がありましたが、

 しょっちゅう会う人にしか、まだ
 お伝えできていませんでした。


 お友達のみなさんには一人ひとり
 あいさつをしていきたかったのですが、

 離婚の手続きやら、事務所の移転やらで
 バタバタしているとき、


 さらに大きなことが起こって、


 いつもヒマな私が、
 めずらしく売れっ子作家のようなスケジュールになり、

 綿密に計画していたつもりが、取るものも取りあえず
 新しい事務所にやってきたのです。




 「さらに大きなことが起こった」というのは……


 それは、次回、発表しますですー。


          ◇


 んで、ですね、

 バツイチ前夜、
 旧居にて夫婦 最後の晩餐(ばんさん)をしました。

 妻が、料理をするというのです。


 「なに作るの?」

 「いちどもやったことなかったから、揚げもの
 したいな」


 「えっ、揚げもの?」

 「もちろん、いい油をつかってよ。
 なに食べたい?」


 そっか。そんなら、

 「じゃがいものコロッケ!」

 これが好きで、
 食事療法をはじめてからも、たびたびスーパーで買っては
 つまみ食いしていたのだ。




 いざ、調理開始。

 妻は、1本1000円以上する
 エキストラバージン・オリーブオイルを
 手にしました。

 それを、ドボドボ、おなべに注ぎ入れるのです。

 あっというまにビンの底は天井を
 むいてしまいました。


 「ぜいたく〜」

 「最後だからね」


 なべを火にかけ、男爵コロッケのタネを放りこみます。


 「できたよ!」

 「ありがとう。いただきまーす」


 カリッ。


 「どお?」




 う、




 ウマー!




 こんなおいしいコロッケ、食べたことない。

 ほくほくのジャガイモも
 おいしいのだけど、

 衣が、すごい。

 この衣だけでいけてしまう。

 いい油をつかうと、
 こんなコロッケがつくれるのか!


 いや、ちがう。これが、揚げもの本来の味なんだ。




 食後も、胃がまったくもたれてこない。

 それどころか、3時間もすると、おなかがスッキリ
 してきました。


 それと、油をとったあとは決まって腸が痛みだすのに、
 なんともなかったのです。


          ◇


 1本のエキストラバージン・オリーブオイルを
 つくるのはとんでもない手間で、

 オリーブを育て、手で摘み、ゴミなどが混ざらないようにして
 しぼらなければならない。

 自分でやろうとしたら気が遠くなる作業だ。


 この貴重な油を1000円で分けてもらえるとは、

 考えてみたら、
 ずいぶん安い買い物じゃないのか。


 逆に、大量生産して、機械で刈りとって、
 クスリ漬けで抽出したキャノーラ油などは、

 1リットル398円でも ぼったくりだろう。




 油は、もともと、ぜいたく品だった。

 だから、油をつかった揚げものも、ぜいたく料理だった。


 それが戦後、急速に、庶民の料理になった。

 ぜいたく品である「油」が、庶民全員の手に行き渡った
 からだけど、

 それは油の質がガタ落ちしたからであるのを、
 みんな知らない。


          ◇


 かくいう私も、最近まで無知でいた。

 100円でコロッケが買える。それが当たりまえだと
 思っていた。

 けれど、

 それは庶民が、
 貴族のまねをして背伸びしていたわけで、


 つまり、

 100円で手に入るはずのないものを
 手に入れていたから、

 しっぺ返しを受けたのだ。




 いま、食品の品質が落ちたことが騒がれているが、


 この低品質化は、

 私たち消費者が望んだことだったんじゃないか?




          ◇


 食事が終わった。


 「おいしかったぁ〜! ありがと!」

 「おいしかったねえ。……ありがとう」


 「ん? ぼくは食べただけなんですけど」

 「んーん。いままで、いろいろ、ありがと」




 からっぽになったオリーブオイルのビンが、
 台所の蛍光灯に照らされ、キラキラ光っていました。


 「ありがと」

 「ありがと」
Posted by 松井 二郎 at 12:56 | この記事のURL