さよならエレンタール [2015年06月28日(Sun)]
◆続・クローン病中ひざくりげ(117)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ついに体重39.5キロ。クローン病になってからの最低記録を塗りかえた。 120日で4.5キロやせてる……。おれ、超ダイエッターじゃん。100キロの巨漢ならこの減り方もおかしくないが、44キロだった奴が、これはやばい。 42キロのころはまだ体に力があるのを感じたが、いまはない。何をするにも、起き上がるのも、トイレに行くのも、洗顔するのも、ヒゲを剃るのも、漢方薬を飲むのも、エレンタールを飲むのも、歯磨きも、風呂も、布団に横になるのも、いちいち全力をふり絞って、ようやくひとつずつをこなすのである。 とうとう外出用の杖を買った。 「松井さん、杖を持つようにしてください!」 そう読者さんからメールをもらったのが6年も前である。だが、それをやったら、一生そのままになるような気がして、怖く、治る方向へ向けている心のベクトルがそれるような気がして、厚意に深く謝しつつも、勘弁こうむっていた。 それをついに、買った。 ◇ それにしても、エレンタール(栄養剤)ばかり飲んでいるのに、なぜだ? この衰弱は、ふつうではない。そりゃクローン病という状態がふつうじゃないのであるが、ここのところ免疫のリバウンドというにはあまりに激しい症状が出ている。 これはほんとうに免疫のリバウンドなのか。それとも妻の言うように単なる悪化か。それをくい止めるために食事をやめたのに。エレンタールしか飲んでいないのに……。 「まてよ? もしかして!」 だからなんじゃないか? エレンタールが悪い、とは考えられないか? 忘れていた。真逆の発想。わたしの得意技。いつもこれで難局を乗り切ってきた。食べろと言われれば、食べない甲田医学。免疫を抑えろと言われれば、免疫を抑えない松本医学。 そうだ。やめて様子をみてみよう。エレンタールを飲めと言われたのだ。飲まないでみよう。 その日からである。 発熱がピタリと止(や)んだ。腹痛が激減した。1日30回だった下痢が10回になった。腹がへこんだ。痔瘻(じろう)までもがおさまってきた。 「エレンタールかいっ!」 ◇ 理解した。この栄養剤を免疫は敵と見做(みな)して攻撃していたのだ! 栄養剤を飲み始めて3年になる。はじめは吸収できていた。じっさい、入院したときはこれだけを飲んで体重が増えた。しかし、この化学物質入りの栄養剤に対して白血球はじょじょに抗体をつくるようになっていたのだ。そしてついに栄養剤全体を敵と見做すようになったのである。 そりゃ毎日39度近い熱が出るわけだ。こんなに大量の敵を送りこんでいたのだもの(900キロカロリーぶん)。 夕方からの発熱はしばらくおさまっていたのに、また出るようになったのも、さぼっていたエレンタールをまじめに飲みだしたからだ。じゃあ、かなり前からエレンタールのせいで熱がでていたのか。夕方から上昇してくるのは、この大量の敵(エレンタール)を飲み終わるのが夕方だから……。 食欲がなくなっていたのも、いままでは腸の中の大量の敵(エレンタール)を掃除するための戦いで手一杯だったから……。 ◇ その食欲が、湧いてきた。 とはいえ、この衰弱した体ではふつうの量は受け付けない。幼児が食べるくらいの量を1日2食であるが、 「おいしい……」 なんという幸せ。食べられるって、幸せ。 対して、便の量はすごい。この小さなおなかのいったいどこから? と訝(いぶか)るほど排便がある。ろくすっぽ食べてないのに……。 「あっ! エレンタールか」 この大量のねっとりした便、まちがいない。 エレンタールは宿便となっていたのだ! じゃあいままで栄養剤、吸収できずに排泄(はいせつ)していたのか? あんなに、具合だけ悪くなって。ば……バカみたい……。 腸に消化中のものがあるときエレンタールを飲むと何時間もオナラが出たのは、エレンタールと混ざることで食事も敵と見做され、吸収しようとする力と排泄しようとする力とが拮抗(きっこう)し消化不良をおこしていたのだ。 食事をやめてもガスが発生したのは、エレンタールが宿便化していたから、それが異常発酵していた……。 ◇ これは“レミケード”を使った際の将来を暗示している。クローン病を抑える切り札とされる薬だが、使って3年もたてば、レミケードに対してもこうして抗体をつくるようになるということだ。そしてそのころにはレミケードを使わないと生きられない体になっている。打つ手なし、だ。 2、3日で、オナラもほとんど出なくなった。ああ、よかった。いつ腸が破れるんじゃないかと……。 「あ!」 腸に穴があくのもエレンタールのせいだ。 エレンタールさえ飲まなければ腸に穴があくことはないのではないか? 発見! そうだ。きっと、そうにちがいない。 これはいよいよ、エレンタール、やめねばならぬ! (つづく) ◆ 編集後記  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ まほろばの杖と名づけた。 え? だって装備品には名前つけなきゃでしょ(どれだけオタクだ)。 ◆このブログはメールマガジンの記事をアップしたものです。 最新の記事は、メールでお送りしています。 無料購読するには今すぐここをクリック |