夜とトイレと血の池と [2012年12月08日(Sat)]
◆続・クローン病中ひざくりげ(28)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「アギャーッ!」 排便をきっかけに、痛みが激烈になることもあって、ときどきトイレで奇声を発している。そんなときは、そのあと1時間くらい激痛が続き、ギャアー、ギョエー、とひたすら悲鳴をあげている。 いつかこのアパートから追い出されるんじゃないか。 ◇ どうにも、おしりにウミがたまりすぎるので、外科を受診することにした。 おしりに穴があいたのであるから、ウミはたまらずに出てきてくれてもよさそうなものだが、そうはいかず、いったん皮下に一定量がたまってから、たくわえきれなくなって圧力で押し出されるかたちで出てくるのである。だから、ウミの出口があるとはいえ、ウミ自体がおさまってくれないことには常にウミがたまっている状態となり、これが、もう、ホント、泣けてくるほど痛いのだ。 さらに困ったことに、この穴は、キズであるから、自然とふさがってくるのである。体が治ろうとしてくれているのはいいことなのだけれど、穴はウミの出口でもあるので、治ると、ウミの出口も失ってしまう。それでプックリ腫れて痛いし、体はウミの出口を求めて再び穴をあけようとするから、それがまた痛いのだ。 そこで、外科でサッサと穴をこじあけてもらうのである。 "モスキート" という、先端がとても細いハサミのおばけみたいな器具を、 (実物を見たい人はコチラ) http://www.takasemed.com/shopdetail/012036000001/ 閉じかけた穴に突っこみ、エイヤッ! と開くのだ。これ、ギャアッ! と声がでるほど痛い。だが、ウミをためたままでいる痛さに比べればずっとマシだ。 「ギャアッ!」 外科の診療室に、われながらすごい声が鳴り響いた。 ◇ 「そろそろレミケードしましょうよ」 担当医だけでなく、外科の医師も、毎度すすめてくるのである。ああ、だからなるべく受診したくないのだ。 "レミケード" は、免疫のはたらきを完璧に止める薬である。外科でもこれをすすめる理由は、白血球が菌と戦うから、菌と白血球の死骸であるウミができるので、白血球さえ黙らせてしまえば、ウミも止まる、というのだ。 常識で考えたら、この薬をすすめるのは当然で、断る私のほうが、頭がイカレていると見るのが至当だろう。 しかし、黙らされた白血球たちは、いつまでも黙ってはいないわけで、あとで、黙っていたぶんだけ一気に暴れる。病気で、耐えられないほどつらい症状というのは、たいてい、こういう薬のせいで起きる "免疫のリバウンド" である。 免疫を抑える薬は健康な人でも使ってはならない。 ましてクローン病を治そうとしている私は、免疫だけが頼りだ。レミケードなど絶対に使ってはならない。 そもそも、この痔瘻(じろう)もかつて抑えた免疫のリバウンドなのだ。 しかしこんなこと、常識的な医師は知らない。 外科医はレミケードを断り続ける私にヤキモキなさっている。ああ、早く治って、安心させてあげたい。 閉じかけている穴をこじあけてもらったら、おしりの痛みは激減した。おかげさまで、トイレで奇声をあげる回数もめっきり減った。 これでアパートから追い出される日が遠のいた? ◇ 2011年11月(治療開始から1年半)。 クローン病の症状はだいぶなくなってきている。軟便が1日10回ほどあるのと、あとはこの "痔瘻" があるだけ。この2つがなくなれば、ほぼ治ったと言ってしまってよさそうなくらいだが、なかなかしぶとい。 とくに、痔瘻が。 なにしろ、直腸に穴があいているのだ。ちょうど破れたホースから水もれするように、どうしても、直腸にたまった糞便がこの穴のほうに入ろうとする。直腸の穴は皮膚まで貫通している。これはいわば常時ひらている傷口のようなもの。このキズにつねにバイ菌が入ってくるため、つねに化膿しているのだ。するとウミがたまって痛い。ときに、激烈に痛い。眠れないほどだ。 ◇ ただでさえ眠れないうえ、夜中、便意でも目がさめてしまう。 いつもどおり、寝ぼけまなこでトイレに。用が済みかけた、そのときであった。 「ぎゃーッ!!」 肛門右側の痔瘻に、鋭い痛みが走った。あの "モスキート" で穴をグイッとやられたよりも痛い。 その痛みが、まったく止まらず、走り続ける。 「ぎゃーッ!! 痛゛いーッ!! あ゛ーッ!!」 アパートじゅうに聞こえているはずである。 眠気がいっぺんに吹っ飛んだ。 トイレットペーパーをあててみると、ペーパーが血の池になっている。 何回かペーパーをかえると、血がつかなくなってきた。痛みも少しずつおさまってきたので、その日は、なんとか寝た。 ◇ 数日後。 部屋に朝日がさすなか、おしりをケータイで撮ってみた(マニアックな趣味があるわけではない)。 すると、 「なんじゃこりゃあ!」 穴だ。 新しい穴ができている。 あの、夜中に激しく痛んだところだ。 かつて外科で切ってつくった穴のそばに、もうひとつ、見覚えのない穴があいている。 「また、やったのか!」 体が、ウミの出口を求めて、自分で穴をあけたのである。どおりで、痛かったわけだ……。 新しい穴は、いつもウミがたまる部位のピッタリまん中にできていた。おそらく、外科であけた穴よりも、こっちのほうがウミを排出するのに都合のよい位置なのであろう。 ◇ これで、とうとう、3つめの穴が。 あ、肛門をいれたら4つだが。 クローン病じたいは、日に日に良くなっているけれど、痔瘻とは長い付き合いになりそうだ。二郎だけに。 (つづく) ◆ 編集後記  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ アパートからは追い出されないことを願おう。 ◆このブログはメールマガジンの記事をアップしたものです。 最新の記事は、メールでお送りしています。 無料購読するには今すぐここをクリック |