ナゾのかゆみのその先に [2012年09月14日(Fri)]
きょうで、入院編はおしまい。 入院編1回目(2012/5/18)から今回までをつなげると、ひとまとまりの短篇小説になります。 難病の原因と治療法がわかる世界唯一の小説です。 あなたのまわりに、難病で苦しんでいるかたはいませんか。 松本医学を知る手がかりとして、まずはこの小説を読んでもらうのもありかもしれません。 バックナンバーブログのここから、最初から読むことができます。 では、入院編ラスト1発、いってみよ〜♪ ◆続・クローン病中ひざくりげ(20)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 私の入院生活は、その後たいへん平穏に過ぎた。 ノートパソコンを持ちこんでいたから、仕事もはかどった。"エレンタール"(栄養剤)のおかげで、ずいぶん体調がよかったのだ。 退院の日が近づいていた。このころになると、エレンタールの味つけは、ヨーグルト味にオレンジ味を加えたところへさらにパイナップル味をブレンドし 「どうだ。トロピカルヨーグルト味だぜ」 などと、いよいよヒマつぶしに拍車がかかっていた。 エレンタールの容器を振ってよく混ぜながら、あの薬漬けの学生さんの横顔を、ちらと見た。 首から点滴がつながったままである。 点滴は、入院中、ついに外れるところを見ることがなかった。彼は、トイレに立つときも、点滴をつり下げてある器具をキャスターで転がして歩いていた。イケメンの顔が、すこし沈みがちになったような気がする。 私はエレンタールのふたをあけて、ひと口、飲んだ。 ◇ 退院を数日前に控えたころである。 夜、眠ろうとすると、手の甲がかゆい。 そこをかいたかと思うと、こんどは二の腕がかゆい。 しばらくポリポリひっかいていると、つぎは足のスネがかゆい。 背中があちこちかゆい。 かく手がたりない。 「シャワー浴びてるだけだからか。それも、2日にいっぺん」 それにしたって、このかゆさは何だ。ちょっとふつうではない。 部屋が乾燥しているのか、と思ってカベの湿度計をみると60%、きわめて快適。 このかゆみが、毎夜、寝ようとすると襲ってくる。 まさかフトンにノミが……いるわけないか。うちじゃないのだ。 あるとき、たまたま、いつも使っているトイレとは違うトイレに入った。その洗面所は、よその場所よりも2倍くらい蛍光灯が明るかった。ちょっとまぶしいくらいだ。 「あっ!」 その光を浴びて、ナゾが解けた。 見よ。顔じゅう、目立たないないけれども赤いプツプツが現れている。いままで、鏡をみても、光が弱くて気がつかずにいたのである。 「アトピーだ! アトピーになったんだ」 からだにはリンパ節という免疫細胞の基地が3000あって、クラススイッチはそこで行われる。 免疫細胞がつくりだす武器を抗体というが、抗体のクラス、つまり化学物質に対して使用する武器の種類がIgGからIgEへと、ほんらいあるべき姿に切りかわっていくのだ。これは3000箇所いっぺんに起きるのではなく、じょじょに進行する。殺傷武器であるIgG抗体から、排泄武器であるIgE抗体に切りかわっていく。 このクラススイッチが完全におこなわれると、化学物質を殺そうとはしなくなる。化学物質とIgG抗体との戦いであったクローン病は治り、直腸からおしりへ貫通した穴も、同じものであるからこれも治る。かわって、アトピーになっていく。 "レミケード" を使わなくてもよいのだ。いや、使ったらクラススイッチも起きなければ免疫寛容にも至ることができないのだ。 いまからさらに免疫力を高めれば、免疫寛容といって、化学物質への攻撃が終結する。IgE抗体も暴れるのをやめ、アトピーも治る。 これがいかなる難病も完治させる松本医学である。 やった。やった。私は、賭けに勝ったのだ。もとより完全な理論、こんな安全な賭けもないのだが、こっち側にコインを置く人が絶無にひとしいからには、やっぱり私は、勝ったといっていいのだ。 まだ勝負は続行中だが、一里塚は、たしかにこえた。 ◇ 退院の日がきた。 「お世話になりました」 看護師さんに礼をいって病院を出た。ひさしぶりに、屋根のない、大空の下を歩く。春の日差しがまぶしい。 下痢は1日10回前後に減り、体重は44キロまで増えた。病院側はそれが今回の入院の成果と思っているだろう。ふふ、ちがいます。 ことしこそ花見がしたかったのだが、一歩おそかったようだ。みんな散ってしまった。すっかり緑になっている。 (入院編 おわり) ◆ 編集後記  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ラストが、ちょいクサいかなと思ったんですが、ま、うれしかったんで、これでいいでしょう。 ◆このブログはメールマガジンの記事をアップしたものです。 最新の記事は、メールでお送りしています。 無料購読するには今すぐここをクリック |